ご飯をあげていた野良猫が「さくらねこ」に…保護したものの毎晩夜鳴き、撫でられるまでに5カ月 今はすっかり甘えん坊

岡部 充代 岡部 充代

 

 大阪府茨木市に住む大槻祐也さん、幸代さん夫妻がマンション駐車場で1匹の猫を見掛けたのは2020年7月下旬のことでした。それまで猫とのかかわりは全くなかった二人ですが、すぐに“保護”という言葉が浮かんだと言います。

「猛暑でしたし、痩せてぐったりしているように見えたんです。目も腫れていました。近くにはカラスの羽根がいっぱい落ちていて、危険なんじゃないかというのもありましたね」(幸代さん)

「妻の一目惚れだったと思います。普段は生き物にあまり興味を示さないのに、テンション高めで報告してきましたから。ごはんをあげた時点で、きっと飼うことになるなと思っていました」(祐也さん)

 二人はその猫をきなこくんと名付けて、毎日ごはんとお水をあげました。でも、なぜか食べに来るのは3日に1度。あとで分かったことですが、どうやら他にも“餌場”があったようです。

 3週間くらいたったある夜、外から猫の大きな鳴き声が聞こえました。心配した祐也さんが外に出てみると、2匹の猫に追い掛け回されるきなこくんの姿が! 祐也さんが助けに入り事なきを得たのですが、その日から毎日ごはんを食べに来るようになったとか。「このヒトのそばにいれば安心」と思ったのでしょうか。

 

 最初はごはんを置いて部屋に戻っていましたが、しばらくすると目の前にいても食べてくれるようになりました。ただ、2メートルが限界。一度も触ることはできませんでした。自分たちで捕獲することは難しいと考えた二人はインターネットで検索し、捕獲・搬送から不妊手術までお願いできる『のらねこさんの手術室』に予約を入れました。

 ところが、その直後にきなこくんが姿を見せなくなってしまいます。二人が心配していると4日目にごはんを食べに来たのですが、右耳がカットされた「さくらねこ」になっていました。「さくらねこ」とは、不妊手術を受けたしるしとしてオスは右耳、メスは左耳の先を桜の花びらのような形にカットされた野良猫のこと。手術済みの子が再度捕獲され、メスを入れられることがないようにするための目印です。

 幸代さんが調べてみると、他の場所でごはんをあげていた男性からの依頼で、あるボランティアさんが去勢手術を受けさせてくれたことが分かりました。

 ここで問題になるのが、一度捕獲され怖い思いをした野良猫を捕まえるのはかなり難しいということ。『のらねこさんの手術室』は野良猫の不妊手術専門病院で捕獲のプロではないので、代わりに『ねこから目線。』を紹介してくれました。こちらは野良猫・保護猫専門のお手伝い屋さん。捕獲に関してもプロフェッショナルです。そのプロでさえ「捕獲には時間が掛かるかも…」と言ったそうですが、なんと1分24秒で捕獲器へ。みんなの予想をいい意味で裏切り、きなこくんは大槻家の子になりました。

 

 捕獲直後の検査で猫エイズ(FIV)キャリアであることが分かりました。でも「野良猫だから覚悟していた。どんな病気でも飼うつもりだった」と大槻夫妻。その後『三尖弁異形成』という、心臓内で血液の逆流が起きてしまう心臓病も抱えていることが判明しましたが、きなこくんへの愛情に変わりはありません。いえ、むしろ強くなっていると言えるのではないでしょうか。

「三尖弁逆流症があると子猫のうちに死んでしまうことが多いらしいんです。きなこは保護したとき推定3、4歳と言われたんですけど、その病気を抱えて野良でその年齢まで生きていたことがすごいと。FIVで免疫力も弱いのに…僕らの中では“奇跡の猫”ですね」(祐也さん)

 DIYが得意な祐也さんがお手製のキャットウォークを作り、きなこくんが喜びそうなおもちゃは何でも買ってあげる。フードはもちろん無添加で体にいいものを…二人が“溺愛”するのも分かる気がします。

 

 きなこくんは“家猫”になって3日間「ニャー」も言えず、用意してもらった3段ケージ1階のトイレの中で、入口に背を向けて固まっていたそうです。そして1カ月半もの間、夜11時ごろから明け方まで夜鳴きが続き、夫婦そろって一睡もできない日もありました。夜鳴きが完全になくなったのは4カ月目。手でなでさせてくれるようになったのは5カ月目だったと言います。そんな怖がりでナイーブなきなこくんと根気強く向き合い、決して無理強いせずに距離を詰めていった大槻夫妻。今ではゴロゴロとのどを鳴らし、祐也さんの布団の上で眠るようにもなりました。「きなこのためなら何でもしてあげたい」と話す二人。次は壁一面のキャットウォークを作る予定だそうです。

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