柳楽優弥が明かす世界三大映画祭への長年の“執着” 3週間のモンゴル滞在で「肩の力抜けた」

黒川 裕生 黒川 裕生

「もうすぐ31歳になりますけど、撮影現場での怖さは、いまだにありますね。あの緊張感は言葉にしにくいなあ…。まだまだ試行錯誤、自分探しです。してますか?自分探し」

インタビュー中、柳楽優弥さんに突然問われて面食らった。

――いや、僕はもうずいぶん前にやめましたよ。

「どうやってやめたんですか?」

――いろんなことに執着しないことにしました。

「執着しない、か……それが欲しいですね!」

――柳楽さんは執着するんですか?

「だって14歳のときに『誰も知らない』でカンヌ国際映画祭の主演男優賞を取って以来、(世界)三大映画祭、三大映画祭って十何年ずっと思ってましたもん。よく『諦めない方がいい』って言うじゃないですか」

――柳楽さんはそっちの方がいいと思いますけど。

「じゃあ、この気持ちをずっと抱えていくのか…(笑)。でも『諦める良さ』ってあると思うんです。これからは、そういうことも学んでいかないといけませんね」

  ◇   ◇

「来月、行けますか?」でモンゴル滞在3週間

柳楽さんが主演した日本・モンゴル・フランス合作映画「ターコイズの空の下で」は、雄大な光景が広がるモンゴルに3週間滞在し、ゲル生活を送りながら撮影したロードムービー。柳楽さんは、実業家の祖父に甘やかされて育った金持ちの放蕩息子タケシを演じた。終戦後に捕虜としてモンゴルに抑留された際にできた娘を探してほしいという祖父の願いを叶えるため、鮮やかで生命力にあふれる世界に飛び込み、日本では想像もできないようなトラブルや、現地の人たちとの交流を通して成長していく姿が、生き生きと描かれていく。

「来月モンゴル行けますか?みたいな感じで急に来た仕事です。『ロードムービー』『海外との合作』『モンゴルで撮影』と気になることだらけだったので『行けます行けます』と即決しました。20代はキャラクターっぽい役柄が多くて、もちろんそれはそれでありがたかったんですけど、全然知らない環境でどういう演出をしてもらえるんだろうという期待もありました」

監督・脚本のKENTAROさんは海外育ち。日本ではあまり知られていないが、4カ国語を操る国際派俳優、そしてアーティストとしても活躍している。

「最初はどういう人か全く知らなくて。でも実際にお会いするといろんな作品に出演されているし、とにかく豊かな知識をお持ちの人で、とても勉強になりましたし、刺激にもなりました。現場では即興演出も多く、毎日何が起こるかわからない。そのドキドキ感が面白かったですね」

「僕のデビュー作『誰も知らない』の是枝裕和監督が即興演出をよくされる方で。今回のKENTARO監督もその感じに近くて、『あ、俺こういうの好きだったじゃん』という感覚を久し振りに思い出しました。こういう面白そうな話にはこれからもどんどん参加していこうとあらためて思えるようになった大切な作品です」

いつも世界三大映画祭のことを考えていた

「誰も知らない」で注目された後も、柳楽さんは数々の映画やドラマで強烈な存在感を示し、忘れがたい印象を刻んできた。2016年には真利子哲也監督の映画「ディストラクション・ベイビーズ」で新境地を開拓。第一線で活躍しながら、それでも実は、頭の片隅ではいつも世界三大映画祭(カンヌ、ベルリン、ヴェネチア)のことを意識していたという。

「『誰も知らない』だけだと思われることが悔しくて、何か違う証明、新しい名刺のようなものが欲しいという気持ちがずっとありました。でも映画祭に行きたいと思っても、追えば追うほど逃げていく感じで。最近は俳優が意識しすぎるのも良くないんじゃないか、と考えたりもしています」

「この『ターコイズの空の下で』は、そういう“余計なこと”にとらわれる環境から遠く離れて、肩の力を抜くことを覚えた作品かもしれません。ドイツの映画祭で、何故かすごくウケたんですよ。満員の客席が爆笑、爆笑で。いまだに理由はちょっとわからないんですけど(笑)、『合作映画でドイツ人を笑わせたんだ』ということは、映画祭の賞とはまた違う自信につながりましたね」

下の世代から「心強い」と思ってもらえる存在に

慣れないモンゴルでの撮影は、カルチャーショックの連続だった。

「楽ではなかったですよ。電波もつながらないですし、ハッキリ言うと不自由。でも自分を見直し、精神的に成長する経験になったと思います。それに、共演したモンゴルの俳優さんたちがみんなレベルが高くて、すごく衝撃を受けました。ちゃんと演劇学校で学んでいるので芝居が上手いのはもちろん、海外でしっかり語学の教育も受けているので、普通に英語がペラペラなんですよ」

「主人公に同行するアムラ役のアムラ・バルジンヤムさんはモンゴルの大スター。みんなの“兄貴”です。現場では誰からも慕われ、先輩として引っ張っていく。その関係性がなんだかすごく良かった。僕も30代になり、下の世代がどんどん増えています。アムラさんのように、後輩たちからちゃんと『心強い』と思われるように頑張らなきゃいけないですね」

「良いタイミングで、良い作品、良い監督と出会えたことが嬉しいです」と話す柳楽さん。明るい話しぶりや、KENTARO監督との笑いが絶えない舞台挨拶などからも、今かなり充実している様子が窺える。そう水を向けると、柳楽さんは頷きつつも、「でも、いまだに怖いですけどね」。この言葉から始まったのが、冒頭のやりとりというわけだ。

インタビューした日の前日、柳楽さんがビートたけしさん役を演じたNetflix映画「浅草キッド」(2021年冬配信予定)がクランクアップしたばかり。「準備も含めて6カ月、タップダンスや漫才をすごく練習しました。強烈でしたね。今言えることは少ないですが、緊張の連続で、まあとにかく強烈でした」。多くの作品や人との出会いを財産にしながら“自分探し”を続けてきた柳楽さんの30代。なんだかワクワクしてきませんか。

【柳楽優弥】
1990年3月26日生まれ。2004年、「誰も知らない」でカンヌ国際映画祭の史上最年少・日本人初となる主演男優賞を受賞。2021年には主演映画「HOKUSAI」「太陽の子」「浅草キッド」が公開予定。

「ターコイズの空の下で」は全国で順次公開中。
◇公式サイト http://undertheturquoisesky.com/

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