マンU対リバプールに苦情殺到の理由…特別ユニは色覚障がいの人にはどう見えたのか 再現画像が全てを語る

広畑 千春 広畑 千春

 サッカーのイングランド・プレミアリーグの名門、マンチェスター・ユナイテッド(マンU)とリバプールの一戦で、SNSに苦情が殺到した-というニュースが話題を呼びました。マンUが特別にあつらえた深緑のユニフォームとリバプールの赤いユニフォームが、色覚障がい(色弱)の人には判別しづらく、「注目の一戦が台無しになった」というのがその理由ですが、実際にはどう見えていたのか、普段の生活での落とし穴は…。20年近く前から色弱の人にも見やすい色合わせに取り組む日本メーカーの担当者に聞きました。

印刷デジタル化の最先端技術を生かし…

 そのメーカーは、インキ大手の東洋インキ(本社:東京都)。インキ会社のノウハウをもとに、2002年からカラーユニバーサルデザインに取り組んできました。

 「最初は世間話からだったと聞いています。当時は印刷もデジタル化していく過渡期で、弊社でも色をデジタル信号に変換する技術を開発していました。その技術を色弱の人の見やすさチェックにも使えるのでは…という趣旨でした」。カラーコミュニケーション開発グループの池田卓美さんは、そう振り返ります。

 色弱は、性染色体上の遺伝子が関係する伴性遺伝で男性に多く、アジア圏では男性の20人に1人、ヨーロッパ圏では男性の12人の1人にみられるといいます。ヒトの目にあり、明るいところで赤・緑・青の色を感じる錐体細胞のどれか一つが欠けている状態で、暗い場所で明るさやコントラストを判別する桿体細胞に視覚を頼るため、夜間の狩りなどに役立ってきた側面もあるといわれています。

 色弱のうち、赤を感じる錐体細胞が欠けた1型は全体の25%、緑を感じる錐体細胞が欠けた2型は75%を占め、青を感じる錐体細胞が欠けた3型はほとんどみられないのだとも。いずれも外見ではそうと分からないため、見え方の実態はあまり知られておらず、焼き肉を生のまま食べてしまったり、緑の中の赤色が分からないため紅葉の美しさが分かりにくかったりということが往々にしてありながらも、その辛さは一般に共有されてきたとは言えません。

 このため、プロジェクトでは、「不便さをデザインの段階から変えよう」と、それぞれのタイプの当事者への聞き取りを丹念に実施。それぞれの型ごとに色の見え方や、色の組み合わせが誰にでも見やすいものかどうかをシミュレーションできるソフトを2年がかりで開発しました。

両チームのユニフォームはこう見えた…カレンダーもグラフも

 このソフトを使って今回の問題を再現すると…Ⅰ型の人では、どちらのユニフォームも焦げ茶色のようになり、サイドにある白いライン程度でしか差がありません。Ⅱ型の人では、Ⅰ型ほどではないものの、やはり茶色で明るさが違う程度の差。激しく動き、もつれ合うサッカーの試合中では混乱が起きるのもうなずけます。池田さんは「背景も赤と緑が入り乱れ、より一層見づらかったのでは」と推測します。他にも、黒と赤、青を使った一般的なカレンダーも祝日が全く読めない状況に…。円グラフでも隣り合う項目の色が混じって全く分からないものになってしまう場合がありました。

 色弱は、「学校用色覚異常検査表」という表を用いて、学校の健康診断で一斉検査をしていましたが、クラス全員の前で並んで行うような手法が批判され、文部科学省はプライバシー保護の観点から2002年以降廃止。その結果、自分が色弱だと気付かないまま大人になり、就職の際に初めて知って不採用に-など、さまざまな問題に直面する場合も少なくないといいます。

 東洋インキが開発したソフトは官公庁や一部の地方紙などが取り入れましたが、一方で地下鉄の路線図など「大多数の人にとって定着した色は変えられない」事も多く、代わりに表示を増やすことで対応するケースも。衣料品メーカーのユニクロなど、タグに色の名前を記して買い間違いを防ぐ取り組みもあるほか、色弱の当事者向けに色を補正できるメガネなども登場しています。

 高田知之・広報担当部長は「欧米を中心に国内でも、自動車・玩具・家電メーカーなどでカラーユニバーサルデザインの考え方が浸透している例もあります。昔に作られて浸透してしまったものはともかく、新しくデザインする場合、例えば商品パッケージのアレルギー表示などは人によって見え方に差がないようにすべきでは」と指摘。「当たり前に見えていると思っているものも、見方を変えれば当たり前じゃないことが多くあります。今回の問題をきっかけに、色弱の人でも見分けやすい色使いについて、多くの人に知ってもらえたら嬉しいですね」と話してくれました。

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