ADHDに気づいて人生が変わる…サラリーマンから、僕にしかできない「葉っぱ切り絵」の世界へ

渡辺 陽 渡辺 陽

リト@葉っぱ切り絵さんは、葉っぱを使った切り絵の作家です。繊細で美しい葉っぱ切り絵は、単に手先が器用というだけでは作れません。リトさんは発達障害のひとつとされるADHD(注意欠如・多動症)なのですが、障害を逆手に取って作家になりました。リトさんに話を聞きました。

「怠けている」「やる気がない」という誤解

リトさんがADHDと診断されたのは、2018年1月。リトさんが31歳の時でした。

「2017年の年末にネットで発達障害という言葉を知って、あまりにも自分に当てはまることが多かったので、診断を受けに行こうと思ったのです。最初、うつ病をメインに診ているメンタルクリニックでADHDと診断されたのですが、市民病院を受診して、再度ADHDと診断され、障害者手帳3級を取得しました」

診断結果を両親に伝えると、「まさか息子が障害者だなんて信じられない」という感じだったといいます。

「ADHDの患者は一見普通の人にしか見えないので、周囲から『怠けている』、『やる気がない』と思われます。そのため、何かができないことを障害のためだと言えないことが当事者の辛いところなのです」

ADHDに詳しい近畿大学医学部精神神経科の辻井農亜准教授に解説してもらいました。

   ◇   ◇

―ADHD(注意欠如・多動症)とは、12歳になる前から、学校、家庭、職場などの複数の場面で同年代あるいは同じ発達のレベルのある方と比べて著しく、注意の持続が困難であったり、落ち着きがなかったり、計画的な行動ができないといった症状があり、そのために社会的な活動や学業の機能、また日常の生活の困難がみられる状態のことを言います。

ADHDをもつご本人は不注意や多動性衝動性によるこれまでの失敗体験から、自分には価値がないと感じたり、自分のことを嫌に感じたりして、悩まれています。思ったりして、悩んでいることが多いです。ただ、それがADHDによるものとは気づいておられないことが多いと考えられています気づかず、ひとり悩んでいる方が多いように感じています。ご家族も、困りごと(落ち着きがない、片付けが出来ない、忘れ物が多い、仕事でのミスが多い、など)は「本人の性格」と思っており、ADHDによるものとは気づいておられないことを気づかないことがよく経験しますあります。

ADHDの治療にはまず、心理教育、環境調整、行動療法などの非薬物療法が実施されます。日常生活機能障害が大きい例に対して、薬物療法が実施されます。その場合にも、薬物療法のみを実施するのではなく、心理教育、環境調整、行動療法などを含めた包括的な治療が大切となります。

最近は発達障害、特にADHDの存在が一般に知られるようになり、ADHDではないかと病院受診に繋がることが増えています。

   ◇   ◇

なぜ僕は要領よく仕事ができないのだろう

リトさんは、社会人になってから「どうして自分はみんなと同じように要領よく仕事ができないのだろう」と漫然と悩んできました。

「自分の興味のあることや好きなことでないと集中力がまったくないんです。たとえば、仕事の説明を聞いてきても、すぐに頭の中に雑念が浮かんできます。何回も聞き返して相手を怒らせたくないから、ついついその場では分かったふりをしてしまい、結局失敗して怒られたということがよくありました。視野が極端に狭く、ひとつのことに集中し始めると全く周りが見えなくなってしまいます。仕事中も後でやればいい雑務に集中してしまうので、『こっち忙しいんだから、早く手伝ってよ』と怒られることも頻繁にありました」

リトさんは、悩みながらも「自分の能力が低いからだ」とか「きっと寝不足のせいだろう」と思ってきました。

しかし、3社目の職場に転職した時のこと。高校を卒業して入社したばかりの女の子とほぼ同時期に入社したにも関わらず、リトさんばかりミスして怒られました。

「上司も僕があまりにも仕事ができないので毎日すごくイライラしていました。だんだん出勤するのも怖くなってきて、出社前に自分と同じような境遇の人が他にもいないか携帯で調べて、ようやく発達障害という言葉にたどり着いたのです」

ADHDの僕にしかできない葉っぱ切り絵

ADHDと診断されてからリトさんの人生は変わりました。

「サラリーマンとしてお金を稼ぐのは能力的に難しいと自覚したので、自分の得意なことで食べていく道を探しました。その中でたどり着いたのがアートでした。ただ、みんなと同じことをしていてもアートだけで食べていくのは難しい。粘土をこねてみたり、紙袋いっぱいに絵を描いてみたりいろいろ試行錯誤しました。海外の葉っぱ切り絵作家さんの作品を見て、自分もこれをやってみようと思いました」

リトさんには、葉っぱ切り絵で食べていけるという根拠のない自信がありました。しかし、周りの反応は冷めた感じで、止められることはありませんでしたが、「まあ、自分の好きなように頑張ってみれば」という温度感だったといいます。

とにかく目の前のことに対する集中力だけは人一倍強い、ADHDの患者特有の個性が葉っぱ切り絵に向いていると思ったリトさん。

「生の葉っぱは紙と違って切ったところからすぐに傷んできます。一度作業をやり始めたら2時間以内に完成させないと変色したり、パリパリに乾いたりしてきます。途中で休憩を挟まなくても完成までずっと集中していられる僕だからこそできるアートなんだと気づきました」

リトさんはツイッターで葉っぱ切り絵の作品を発表し、2020年には目標だった初めての個展を福岡県で開催。その後、各地のフォロワーから「うちの県でもやってください!」というメッセージがたくさん届いたそうです。

リトさんは「沖縄から北海道まで全国の人に作品の魅力を届けたい。同時にADHDの当事者としても発信できることがあれば積極的に発信して、少しても障害に対するマイナスのイメージを変えていけたらいいなと思っています」と夢を語ってくれました。

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