「ミニキリン発見」のニュースに研究者「ほぼ“嘘”」と指摘…何が問題? “ぽっちゃりとした真実”の怖さ

広畑 千春 広畑 千春

 先日、アフリカで通常より小さいサイズのキリンが見つかったーというニュースが流れ、大きな話題を呼びました。ですが、この記事の見出しや本文の内容についてキリンの研究者がSNS上で「誇張や正確ではない点が含まれるとともに、重要な情報が隠され、フェイクニュースではないものの『ほぼ嘘』のようになっている」と指摘し、注目を集めています。

 問題になったのは、論文を紹介した英語版ニュースを和訳した記事。当初は「背が平均の半分しかない『ミニキリン』発見、脚が異常に短いと専門家」という見出しで、昨年末に発表された論文を紹介した海外の記事を日本語訳する形で、「体高が平均の半分ほどしかない『ミニキリン』が、ナミビアとウガンダで相次いで発見された」と報じました。

 これに疑問を投げかけたのは、筑波大学研究員で、キリンの第8の“首の骨”を発見した郡司芽久さん。「日本語の記事が出る前から、もとになった研究論文を読んでいた」といい、すぐに「何らかの誇張が含まれていそうだな」と気づいたといいます。

“ミニキリン”は「中学生ぐらい」、「病気が原因」も削除

 元々の論文のタイトルは「野生のキリンにおける骨格の形成異常(骨の形成や成長がおかしくなった状態)様の症例」で、内容は「骨格の形成異常によって、前足の肘から先が極端に短くなった亜成体(大人になりきっていない「子ども」)のキリンが、2015-2019年の間に2頭見つかった」というもの。どちらもはっきりとした年齢はわかっていないものの、片方は1-2才である可能性、もう一方は3-4才だろうと書かれています。

 郡司さんによると、今回のニュースのもとになったロイター英語版の記事では、このキリンたちが人間でいえば「中学生ぐらい」の若い個体であることに触れないまま、大人のキリンの身長が4.6-6mほど、今回のミニキリンたちの身長が2.5m、2.8mであると記述。そして、論文に基づき、この「ミニ化」は骨が作られる仕組みに何か異常があったためと考えられること、こうした低身長症は人間や家畜ではまれに見られるが弱肉強食の野生動物では極めて珍しいことなどを説明し、キリンが絶滅に瀕していることにも触れていました。

 ところが、この記事が日本語版になる際には、タイトルが「背丈が平均の半分のミニキリン発見」とされ、本文も「体高が平均の半分ほど」、5年間で2頭の症例に対し「相次いで」という表現が加わる一方で、「元の記事にはあった矮小化の原因や絶滅が心配されていることなどは、全てまるっと削除されていた」と指摘します。

 低身長症は人間のほか、家畜や犬などでも確認されている症例。さらに1歳のキリンの身長は概ね3m前後、3−4歳で4mほどといい、郡司さんは「大人になりきっていない今回のキリンを、大人と比べて『背丈が半分』というのはさすがに言い過ぎで、『低身長症で短足』というのが正確でしょう」と指摘し、「論文・専門家インタビューから英語の記事になる際に、論文にはない情報やミスリーディングな表現が加わり、そして日本語記事に翻訳される際に『ほとんど嘘みたいな大袈裟な表現』が加わるとともに、なんらかの病気が原因であることなど元記事にあった情報の多くが削除された」と考察します。

「フェイク?」は否定…「嘘」か「実」か2択の怖さ

 これをツイッターでつぶやいたところ、これまでに2.9万のリツイートがあり、4.6万のいいねが寄せられています。これらを受けてか冒頭のニュースの見出しも「脚が異常に短い『ミニキリン』」と修正されています。

 この反響に「想像以上でびっくりしています。ニュースの見出しがマイルドな表現に修正されたことにも驚きました。正確に、丁寧に指摘すれば対応していただけると分かったことはとても嬉しいです」と郡司さん。「一方で、反響の中には『フェイクニュースですね!』と短絡的に捉える方がいたり、私自身が発信したことにも一部間違いや勘違いが含まれていて適宜修正したりと、情報を正確に伝える難しさも痛感しています」とも。

 そして、「今回の話は決してフェイクニュースや事実無根の嘘ではありません。事実をもとに、少しずつ大袈裟な表現を付け加えて、センセーショナルになっていった、言わば“ぽっちゃりとした真実”というようなものです。嘘か実かーという二極化した答えではなく、どの程度肉付けされているか?を意識して、ニュースに接してみるのも良いかもしれません」といい、「そのためにも『きちんと元の情報にあたること』『他の記事も見てみること』が重要ですし、ニュースでもSNSでも『情報は少しずつ歪んでいく』ということを頭に置いて、全てを疑うのでも全てを信じるのでもなく、疑問を感じたら調べて自分で考えることが大切なんだと、改めて感じました」と話します。

 記事を書く側として、巷に溢れるニュースの中からできるだけ多くの人に読んでもらおうと、事実と違わない範囲で目を引きやすい見出しを考えることはよくあります。注意を払っているつもりでも、情報の読み違いや勘違いをしてしまっていることも。そして伝聞や口伝は、意図せずとも伝わる間に姿も内容も変わってしまいがちです。他山の石として戒めにするとともに、多くの情報が錯綜する時代だからこそ、発信する側も受け取る側も「ぽっちゃりとした真実」の怖さを肝に銘じておくことが大切なのかもしれません。

■郡司さんのnote https://note.com/anatomygiraffe/n/nd95faa0b283e

■元の論文 https://doi.org/10.1186/s13104-020-05403-9

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