「今までありがとう」って、なんであんた標準語なん!? 落語家の猫らしく、最後のお別れまで笑わせてくれた三毛猫・きなこ

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友人宅の飼い猫が、外から帰ってきた際、家に入ってきた仔猫。それが私、月亭天使の家にやってきた猫・きなこ。17年間、喜びをくれ、最後もひと笑い残して天へ昇っていってくれた。

頭の模様がきな粉のようだったのと両親が豆腐店を営んでいたため、きなこと名づけた。漢字で書くと喜那子。なにか、喜びをくれる子という意味だ。

友人から「親とはぐれた仔猫を保護したから、飼えない?」とのメールがきた時、私は上機嫌だった。タイプだったバーテンダーさんに自分から話しかけたことが嬉しく、また、その彼が作ってくれたカクテルを飲んでいたせいである。二つ返事で「いいよ」と返信。

我が家にきた時は生後三カ月ほど。毛もまばらで、お腹がぽっこりと出ていたが、みるみるうちに成長し、窓の外を眺めている様子などは深窓の令嬢としか言いようがなかった。

嫌なことがあった日は、食パンの白い部分みたいにふかふかなきなこのお腹に顔を埋め、塩昆布のような匂いを嗅いだ。十五年を越えても、おもちゃで遊ぶと、力強くジャンプした。深夜や早朝、寝ている私の顔を叩いて起こす。外から帰ってくると玄関まで迎えにくる。

まだまだ一緒にいるつもりだった。

病気療養中だった兄が亡くなり、気がつくときなこの様子がおかしかった。兄の葬儀や諸々のことに追われていて気づかなかったのが、今でも悔やまれる。

連れて行った病院で、「今夜が山です、このまま点滴をすることもできるけど、病院のケージで亡くなるかもしれない」と言われた。明け方、一人、病室で亡くなった兄のことを思うと、せめて最期は一緒にいたいと思った。

家に連れて帰り、「ありがとうな、ありがとうな」と泣きながら、苦しそうなきなこを撫でた。きなこは、明け方に「にゃあ」と一声鳴くと天へ昇って行った。

翌日、インターネットで検索すると、ペット火葬やペット霊園の情報が簡単に手に入った。火葬の前段階の段ボール製の棺などもある。ペットのお墓は70万……。

ごめん、きなこ。そこまでは無理や。うちにそんなお金ないのは知ってるやろ。

そう思いつつ、家の近所のペット斎場を予約し、きなこの亡骸を連れて行った。

綺麗な花の散らばった祭壇に寝かされるきなこ。

スタッフの方が、「私どもは音楽葬でペットの皆様をお送りいたします」と説明してくれた。静かな音楽が流れる中、私はきなこに手を合わせた。

しばらくすると、「それでは最後に。きなこちゃんに感謝の気持ちをお伝えください」とのアナウンス。

「きなこ、ありがとうな。もっと長生きして欲しかったけど、天国でいっぱい遊び回るんやでー」と心の中で呟き、これが最後のお別れかな?と、思った瞬間、突然、可愛い女の子の声が聞こえてきた。

「きなこだよ!今まで可愛がってくれてありがとう!おもちゃで遊んでくれたり、おやつをくれたりして嬉しかったよ」

そういえば、受付の時、飼い猫の名前と性別を書いたなと思いつつ、「まあ、ええねんけど。きなこ、標準語やったんやな」と考える私。

そして、最後に、「でも、一番、嬉しかったのは抱っこをしてもらうことだったよ」と言われた瞬間、「抱っこ嫌いやったけどな。というか、あんた、誰や!!」とつっこんでいた。

最後の最後まで楽しませてくれた、きなこ。ありがとうなぁ。

◆月亭天使(つきてい・てんし) 大阪府豊中市出身。2010年2月、月亭八天(現・七代目月亭文都)に入門。大学卒業後、出版社勤務や繁昌亭アルバイト勤務を経て落語家に。人間国宝・桂米朝、初の玄孫弟子として話題となった。新作落語や古典落語の改作等を手掛けるだけでなく、門真市市民ミュージカル『蓮の夜の夢』『夢、ひとつぶ』では脚本と出演、2016年度豊中市公共ホール演劇ネットワーク事業『演出家だらけの青木さんちの奥さん』への出演等、幅広く活躍中。

▽月亭天使さんのエッセイはこちらでもお読みいただけます
「寄席つむぎ」https://yosetumugi.com/author/tenshi/

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