大阪府寝屋川市で約50匹の猫の多頭飼育崩壊が起こっているという連絡が保護団体に入った。代表の方山さんたちが駆けつけると、車の中にいても現場になった家を特定できるほど強烈な悪臭が立ち込めていた。
悪臭が立ち込める猫50匹の多頭飼育崩壊の現場
NPO法人令和さくら猫マザーヘレンは、猫のTNR(TRAP=つかまえる、NEUTER=不妊手術する、RETURN=元の場所に戻す)活動や怪我や病気で困っている野良猫や子猫の保護、飼い主のいない猫の里親探しをしている団体です。2020年6月、ボランティアさんの家族から、「近所に猫の多頭飼育崩壊を起こしている家がある」という情報が入りました。ボランティアさんが現場を見に行くと、近隣一帯に悪臭が立ち込め、家の中はボロボロ。50匹ほどの猫が足の踏み場もないようなところで暮らしていました。飼い主は50代の女性と夫ですが、70代の夫は入院中でした。
「これ以上不幸な猫を増やすわけにはいかない」ということで、マザーヘレンが介入。猫たちの不妊手術や治療をすることになりました。
「現場に行くと、匂いも強烈でしたが、長い間その状態に業を煮やしてきた近所の人たちが、まるで私たちが多頭飼育崩壊を起こした張本人であるかのように怒りをぶつけてきました。行政も私たちに何とかしろと言う。夫婦にアドバイスする人は誰もおらず、周りはただただ責めるばかり。夫婦は孤立していったのです」
保健所に持ち込むこともできない
コロナ禍の真夏、猫の糞尿と病気が蔓延した非衛生的な現場に入るために、方山さんたちは防護服を身にまといました。ゴーグルや防護服にも匂いがつきました。ろくにエサももらっていなかった猫たちはガリガリにやせ細り、弱った猫が死んだら共食いしていたそうです。
方山さんたちは、寄付を募り不妊手術やワクチンの接種をして、飼い主が猫と暮らしていけるよう、ボロボロの家をメンバーたちの手でリフォームしました。しかし、飼い主は、猫たちを「川に捨てる」と言い出したのです。殺処分覚悟で保健所に引き取ってもらうにも1匹2800円かかるからです。車がないので、保健所に50匹の猫を持ち込むこともできません。人間が食べるにも事欠いているので、そのようなお金はないのです。
「寄付を募った以上、私たちはなんとしても猫たちを幸せにしないといけない。メンバーさんのご厚意によりもともと真珠工場だった築60年の木造家屋を借り、住めるような状態に改装してシェルターを作ってもらいました。現在、シェルターで20匹の猫を預かり、20匹は飼い主のところにいます。順次捕獲して、全頭シェルターに避難させます」
多頭飼育崩壊は人の問題
この間、行政は、「まだ猫、(家から)出せないのですか」と言うだけで、なにひとつ力を貸してくれませんでした。最初は「臭くて孫も来ない!」と怒っていた近所の人たちは、方山さんたちの活動を目の当たりにして、「あんたらは悪くない」と、お茶やサンドイッチを差し入れてくれるようになりました。
方山さんたちが猫を引き取る時、飼い主は、「(猫を持っていかれて)悲しい」と言いました。
「もともとは飼い主が不妊手術しなかったことが原因でこのようなことになったのですが、多頭飼育崩壊を起こす人は、認知症など、生きていく能力に欠けている人が多いんです。しかし、福祉の手にもかからない。高齢化が進むにつれ、隠れた多頭飼育崩壊がどんどん明るみに出てくるでしょう」と、方山さんは言います。
マザーヘレンに在籍する60人ほどのボランティアのうち20人が、毎日二人当番制でシェルターの掃除やエサやりなどのために活動しています。他の多頭飼育崩壊の相談も持ち込まれますが、方山さんは、「多頭飼育崩壊は人の問題」だと言います。近所づきあいも希薄で、福祉の手からもこぼれ落ちた人たちをケアする仕組みが必要です。