野球部の顧問が子どもにパワハラ、ストレスで逆流性食道炎に 学校の罪を認めない態勢にもモヤモヤ…

長岡 杏果 長岡 杏果

パワハラとは地位や人間関係の優位性をもって、度を超えた精神的・身体的な苦痛を与える行為をいうとされています。昨今、ニュースでも職場や学校、家庭内などさまざまなコミュニティの中で優位に立つ者からのパワハラによる被害を受けているという事例が多く取り上げられています。

学校でも教師間のパワハラや、教師の生徒に対するパワハラが問題となっていますが、子どもが被害を受けたとき、親はどうすればわが子を守ることができるでしょう。以前、私の友人も息子が教師からパワハラを受けたと悩んでいました。

熱血教師とパワハラ教師は違う

友人の息子は中学に入学すると同時に未経験で野球部に入りました。

以前からその学校の野球部はレベルが高く、顧問の先生がとても厳しい熱血教師だと有名でした。案の定練習はとてもハードで、毎日帰宅するなり玄関で倒れ込んでしまうほどくたくたの状態で帰ってくるようになりました。

それでも、弱音も吐かずに頑張っているなと思っていたけれど、しばらくした頃から、咳とえづきが一日中続き、就寝中に何度も目を覚まし、泣きながらえづくので彼女も寝不足になりながらも子どもを心配していました。

そんなとき、同じ野球部の子どもを持つ保護者から彼女に「お子さんが先生にいじめられていて見ていられないって毎日うちの息子が言っているけど大丈夫?」と連絡がありました。野球経験のある彼女は監督の厳しい指導は当たり前だと思っていたのですが、どうも思い違いのようです。

不審に思い平日も土日も部活の様子をこっそり見に行った彼女は、確かに自分の息子だけが目の敵のように執拗に怒られ、野球も教えてもらえず存在を無視され続けている様子を目の当たりにしたのです。勉強の成績が優秀なその子の人格を否定するように「勉強ができたところでお前はチームの何の役にも立たない、大きな声だけ出していればいいんだよ」と怒鳴られ、誰よりも大きな声を出す息子にさらに一人だけ声が小さいと終始責め続け、息子の悲鳴にも聞こえる泣き叫ぶ異常な声と先生の叱責の声がグラウンドに響き、居た堪れない気持ちになったと話しながら彼女も泣いていました。

お調子者な息子なので気にいらないところがあったのかもと推測するも、さすがに野球の指導とは程遠い先生の行動はパワハラだと確信しました。

子どもの心と体を壊したパワハラ

もう頑張らなくていいと息子に話すと、心にとどめていた辛い思いがせきを切ったように溢れ出し、安堵して息子がわんわん泣いたと聞いて胸が痛くなりました。

また、いよいよ体調がおかしいので病院に連れて行くと、ストレスから息子は軽い逆流性食道炎と診断されたそうです。

夢の中でも先生に叱られる恐怖のあまり、寝言で大きな声を出してパニックになることもあり、彼女は一晩中息子の背中をさすっていました。

休みの日は体調もよく笑顔を見せるものの、登校時間が近づくと顔は蒼ざめ何度も胃液を吐きます。部活を休むのが怖くて言えない。部活に行っても何を言われるかという恐怖で判断能力を失い、余計に目を付けられ執拗に怒られるというのですから、それが教育者・指導者と呼べるのでしょうか。

彼女は息子の「辛い、死にたい」と言う言葉に、それがいつ現実になるのかと四六時中気掛かりで、仕事中も気が気ではないといつも心配していました。

本人に話を聞けば聞くほど、彼女が実際に目にした以上の屈辱的なパワハラの実情がわかり、もっと早く気付いて助けるべきだったと自分を責めていました。

学校の守りは堅い!罪を認めない態勢にモヤモヤ...

その後、彼女はスクールカウンセラーに相談に行きました。すると野球部以外にもターゲットにされた生徒が精神的に追い込まれ不登校になったり体に影響が出た例も少なくなく、たくさんの相談を受けているというのです。ですが保護者の多くが悩みながらも、訴えることで先生からのパワハラが悪化した事例もあり、それを恐れみんなが泣き寝入りをしているという話もされたそうです。

さらに学校に直訴してもその先生の一人舞台。言葉も巧みで誰も口出しができず指導に間違いはないと取り合ってくれない、教育委員会も手順が複雑でなかなか動いてくれないと聞きました。

完全に怒りが頂点に達した彼女が次にとった行動は、泣き寝入りした保護者などからも話を聞き、息子の事例も含め多くの声を文書にしました。

そして学校の地域を管轄する議会議員へメールを送ったのです。返事が来るとも思っていなかったのですが、幸いにも同じ年頃の子どもを持つ親として見過ごせない話だと共感した丁寧な返事があっただけでなく、面談の機会を設けてくれて詳しくヒアリングもしてくれたのです。

またすぐに学校長へ訴えに動いてくれたのですが、どういう訳かかなりの効果があり、その日に先生からのパワハラが止まり「先生がたくさん野球を教えてくれた!」とうれしそうに息子が帰ってきたというのです。

それから議会議員を通して彼女も学校に向かい直接謝罪を受けることになりました。けれど、謝罪を受けた際に校長をはじめ学校側の「この度は、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした」というパワハラの確信は認めようとしないマニュアル染みた謝罪の言葉が何度も登場し引っ掛かっていました。

彼女の行動は、この件を知らない保護者からも先生の態度が変わって驚いているという噂を聞くほど。これまで多くの人が変えることができなかった状況を乗り越えることができたのです。

長い間、悩み闘った彼女は先生を辞めさせるまで絶対に許さないと思っていたのですが、息子から「もう大丈夫だから、辞めさせないで…先生から野球を教えてもらいたい。もうやさしいよ、目を見ながら話してくれるようになったんだ!」と言われ、仕方なく謝罪に応じたのでした。

いまでは息子の野球はみるみる上達し試合のレギュラーメンバーにも加わることができ、彼女も先生に感謝をしていると話していましたが、どことなく後味が悪く、たまたまほんの一部の問題が解決しただけで学校の態勢の闇も根深いと感じずにはいられません。

教育現場のみならず、当たり前に弱者の人権が守られる社会になることを願います。

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