伊之助もビックリ!?イノシシの生態…祖母と母が同時出産、教育、食事、ウリ坊の過酷な現実

北村 泰介 北村 泰介

人気アニメ「鬼滅の刃」にはイノシシの頭をかぶった嘴平伊之助(はしびら・いのすけ)というキャラクターが登場し、京都にはそのグッズが奉納された通称イノシシ神社があるという。亥年は昨年で、次は2031年。随分先の話だが、干支とは関係なく、今、なにげにイノシシが熱い!?ということで、彼らの実態が気になった。妊娠、出産から育児、死に至るまで、兵庫・六甲山で野生のイノシシに密着する動物写真家・矢野誠人さん(36)にうかがった。

矢野さんは今月28日まで東京・新宿のニコンサロンで「やさしい母さんとおちゃめなウリ坊」と題した写真展を開催中(日曜休館)。6年間に撮影した中から厳選された39作のうち、2頭のメスが寝そべり、3頭と4頭に分かれたウリ坊(子イノシシ)に授乳している写真が気になった。2組に分かれた別の母子かと思いきや、実は母と娘がそろって出産し、3世代で授乳している風景なのだという。

矢野さんは「7-8歳の母(祖母)と3-4歳の娘(母)が同時に出産し、生まれた子どもと孫にお乳を吸わせています。普通は自分の親のお乳しか飲まないので、これは珍しいケースです」と説明。つまり、孫が祖母の乳を吸ったり、妹や弟が姉の乳を吸うこともあるわけだ。

イノシシには「母になる英才教育」があるという。

矢野さんは「ウリ坊の中で『子育てがうまいであろうメス』を1頭だけ、母親がそばに置いて、次の年には一緒に子育てを手伝わせるのです。経過観察中ですが、2年くらい、この母は娘と一緒に子育てをして覚えさせた。この娘がウリ坊の時から撮影していますが、他の子は別の場所に行ったり、死んだりしています」と解説。さらに「オスは一緒にいる姿をほぼ見ないです。育児に全く関与していない。繁殖期の秋から冬にかけてだけ出て来る。ひょっとして夜間に密会しているのかもしれませんが、僕はまだ見たことがないですね」と付け加えた。

イノシシは母と娘がそろって出産して育児タッグを組み、ウリ坊たちは同い年の叔父や叔母も混在して祖母と母の乳を吸う…。オスは種付けだけで、育児には関与しない。ただ、人間の価値観でオスに苦言を呈することはできまい。それがイノシシ界の摂理であるのなら。

さて、食生活はどんな具合なのだろう。

「土の中の小さい虫や、ドングリなど落ちている木の実を食べます。川の中の小さい虫も食べます。とにかく年中空腹で、食べるために生きているという感じですね。食べるか寝るか。ちなみに、ウリ坊は生まれた時には20数センチで、1カ月で一回り大きくなって30センチ余りに。親の体長は140センチくらいあります」

出産と寿命は?

「初産だと2頭とか。ただ、1歳で出産したものの、子育ての仕方が分からずに亡くしてしまうこともありました。3歳になると5、6頭を生み、10歳を超えても産むことも。寿命は10歳生きたら長い方らしいですが、六甲山には15歳くらいの長老がいるそうです。登山をされる人が愛称を付け、耳が切れている特徴から覚えられていました」

愛くるしいウリ坊にも、野生ゆえに厳しい現実がある。

「ウリ坊同士で順位争いをして、負けた子はお乳の時に除け者になって栄養がいきわたらずに死ぬことも。また、溝に落ちて亡くなる例や、カラスに突つかれ、弱って死んでしまうケースもあります」

撮影者である矢野さんの日々も聞いた。

「兵庫県伊丹市の自宅からバイクで六甲山に通っています。カメラは基本2台持ちで広角と望遠レンズを使い、マダニや蚊が多いので虫よけ服を着て撮影します。イノシシには2メートル弱まで接近して撮ります。餌付けはしません。僕と分かって近づかせてくれている感じです。ウリ坊の方から僕に近づいてきて足元をクンクンかいだり、靴を甘噛みしたり。好奇心が強いです」

矢野さんの写真絵本「うりぼうと母さん」(大空出版)が12月に発売された。第1回「日本写真絵本大賞」金賞受賞作で、ポストカード11種類と共に会場で販売されている。来年1月には有楽町の東京交通会館内「ギャラリー エメラルドルーム」でも写真展(24~30日)を開催予定。矢野さんは「将来的には外来種と害獣をメインに撮影していきたい。イノシシの次にヌートリアも撮っています」と意欲的。伊之助ばりに“猪突猛進”で新年も駆ける。

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■「うりぼうと母さん」(大空出版) https://www.ozorabunko.jp/books/other/uribou/

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