経済は立て直せても、失った命は取り戻せない…夜回り先生、コロナ感染対策の徹底を訴える

夜回り先生・水谷修/少数異見

水谷 修 水谷 修
「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏
「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏

 今年も残りあとわずか。新型コロナウイルスの感染拡大が世界を覆った1年だった。「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏は動物感染症の専門家に取材をした上で、「経済は立て直しができても、失った命は取り戻せない」との観点から、中途半端ではない、徹底した感染対策の必要性を訴えた。

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 2020年、最も報道された問題は、新型コロナウイルスについてでしょう。しかし、私は、今の今まで、この問題について、一切語ることを止めてきました。

 それには、理由があります。報道をする側には、責任があります。真実をきちんと報道するという責任が。きちんとわかっていないことを、中途半端に報道することは、許されることではありません。

 実は、私は、3月に、あるテレビ番組から、この新型コロナウィルスによる全学校閉鎖について、出演して話して欲しいという依頼がありました。この状態で、政府がそこまで踏み込むことの是非についてでした。

 そこで、私の叔父に取材しました。叔父は、北海道にある獣医系の大学の名誉教授で、専門は、動物の感染症でした。

 私は、今も叔父から言われた言葉を忘れることができません。叔父は言いました。

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 「すべての感染症は、初動体制ですべてが決まる。鳥インフルエンザでも狂牛病でも、動物コロナウイルスでも、ともかく発生したら、即座に感染した鳥や動物をすべて処分し、その感染拡大を抑える。ワクチンを待つまでもなく、ともかく感染拡大を止めようとする。それが、一番最初にしなくてはならないことだ。修、俺たちもつらいし哀しい。手塩にかけて育てた牛や豚、鳥を、一挙に処分する。飼っていた人たちも泣く。俺たちも泣く。でも、しょうがないんだ。感染症をともかく押さえ込むには。まずは、それしかないし、そうしなくてはならない。初動ですべてが決まる。

 ただ、今回のように、人間の感染症の場合は、感染した人を処分するわけには、いかない。そこに、問題がある。

 また、このようなウイルスは、動物から人へ、人から動物へ、そして人から人へと感染していく中で、様々に変異していく。それが、弱毒化するケースもあるが、逆に強毒化するケースもある。いかに、その感染を、いかに早く抑制するかが、この変異を止める意味でも大切だ。だからこそ、鳥や動物の場合は、感染した場合、即座に処分している。それが、鳥や牛、豚を飼っている農家の人たちの生活を壊すことになっても。

 現在の状況では、学校を閉鎖することは当たり前として、ともかく、人間間の接触を、できれば1か月、少なくとも2週間、完全になくせば、すでに感染した人の中で、死者は出るかもしれないが、今回の新型コロナウイルスを国内から除去できる。その反動で、経済的に日本は、大変な状況になるだろうが。でも、大切なのは、命。経済は立て直しができても、失った命は、取り戻しできない。そこまで、おまえが話すことができるなら、テレビで話せばいい。また、このことは、きちんと話して欲しい」

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 私は、この叔父の言葉を、そのままテレビ局の担当に伝えました。どうも、鳥や動物の場合は、すべて処分するという部分が、報道には過激すぎるようで、出演は見送りとなりました。

 あの3月以来、この問題については、限りない数の報道がされてきました。それら、読むたびに私は、この問題について、語りたくなくなりました。また、その反面で、あの時、テレビで、どんな手段を使っても、叔父の話をきちんと報道すべきだったと後悔しています。

 政府が、これまでの期間繰り返してきたのは、愚かな言葉ですが、「with コロナ」。どう、この新型コロナウィルスと共に生きていくのでしょうか。これ自体が、動物疫学の世界では、ありえないおろかな発想だったのではないでしょうか。

 日々、発表される感染者や死亡者数に一喜一憂し、少し感染者が減ったと、政府の経済対策としての「Go To キャンペーン」に嬉々として参加する。こんな愚かな状況を作ったのは、だれなのでしょう。「中途半端は零」。今なら、多くの人たちが、この言葉を理解してくれるはずです。

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