女性遺体発見報道の一部に問題提起…夜回り先生、自身の体験踏まえ「被害者の人権に配慮を」

夜回り先生・水谷修/少数異見

水谷 修 水谷 修
「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏
「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏

 今年9月から行方不明になっていた都内の女性について、近くに住む男の供述によって栃木県内で女性とみられる遺体の一部が発見された。その事件に関する一部報道に対し、「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏は「報道しなくてはならない情報か?」と問題提起し、自身の体験を踏まえながら「殺人被害者の人権にも配慮を」と訴えた。

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 東京都豊島区の35歳の女性が行方不明となり、栃木県那須町の別荘地で遺体が発見されました。そして、近くに住む佐藤喜人容疑者(29)が、死体遺棄容疑で逮捕され、警視庁は、殺人容疑でも捜査を続けています。

 この事件については、当然のことですが、新聞、テレビ、ネット、週刊誌などで、報道されています。その中で、またも殺人被害者の人権を無視した、哀しい報道がなされました。

 新聞、そしてテレビの報道については、私が確認した限り問題はなかったのですが、一部のネットニュースや週刊誌で、遺体の発見状況について、「服を着ていない状態で発見」(このカギ括弧は、記事より)という報道がなされました。これは、報道しなくてはならない情報だったのでしょうか。また、この部分にカギ括弧をあえて付けたのは、どのような理由からでしょうか。これは、殺された被害者やその遺族の方々を、さらに哀しみに追い込み傷つける意味のない、それどころか、報道倫理に反する悪意のある報道ではないでしょうか。

 私には、哀しい思い出があります。今から42年前です。私の大学の友人の妹が殺されました。遺体が発見された次の日の新聞には、「全裸遺体発見」と各紙とも大きく載りました。このことは、大切な娘、妹を亡くした友人やその家族をさらに苦しめることとなりました。その姿を見ていた私や仲間たちは、すぐに、各新聞社を訪ね、この記事の責任者たちと面会し、このように報道した理由を聞きました。そして、その報道が、亡くなった人のみならずその家族をさらに追い込んでいることを話し、謝罪を求め、二度とこのような報道をしないことを求めました。

 私は、今も、担当の人たちが一様に答えた言葉を覚えています。彼らは、自分たちは、警察から発表された事実をそのまま伝えただけであり、それは、報道の義務である。また、市民は、その事実を知る権利を持っている。この言葉を繰り返しました。私が、それでは、もしあなたの娘がこのように事件の被害に遭って、そして、このように新聞で報道されたら、あなたはそれを許せますかと問うと、返事はありませんでした。

 あれから、42年の月日が流れました。今回の報道を見ても、新聞やテレビの報道においては、この問題について、一定の良識が働いているようです。しかし、一部のネットニュースや週刊誌では、その良識より、派手で好奇な記事を書くことで注目を集めることが大切なようです。

 みなさんにお願いです。被害者は、一言も自分の思いや考えを伝えることはできません。その被害者のことを考え、このような報道をあえてしてしまう、ネットニュースや週刊誌を読まない、手にしない良識を持ってください。亡くなった被害者やその家族を、二度苦しめることは、あまりにも残酷です。

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