首をかまれた子猫、猫に助けられ九死に一生 保護から2年8か月…念願の家族が見つかり幸せに

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 兵庫県神戸市北区の市営住宅では、野良猫が100匹以上に増え、糞尿被害などで住民から苦情が出ていた。2016年の12月から、市民ボランティアらが野良猫の繁殖制限のためのTNR活動(野良猫を安全に捕獲し、不妊・去勢手術をして元の場所に戻し、命を全うするまでお世話する)を始めた。

 2017年5月27日のこと。空き家になっていた1階のベランダで、長毛の黒猫親子を発見。生後約1か月の子猫2匹(キジトラとサビ柄)を保護した。その翌日、今度は同じ母猫がオスの黒猫を抱きかかえて現れた。母猫が産んだ猫ではない子猫だった。「ノア」と名付けてお世話することにした。

 ノア君を連れて帰った夜、保護主は、ノア君のあごの下から首まで大きく腫れているのに気づいた。汚れを拭いていると、傷口から大量の血膿が流れ出た。

 翌日、動物病院を受診した。獣医師の説明では、「猫か何か、動物に首をかまれたようだ」。ノア君は感染症を起こしかけていたのか、それから数日間は熱が出て、意識がもうろうとしているときがあった。

 目の前で猫じゃらしを振っても全く無反応。まっすぐ歩くことができず、急にバタンと倒れたり、じっと動かなかったり。そしてある日、自傷行為が始まると、流血してもかみ続け、ついには尻尾の先から5ミリくらいをかみ切ってしまった。これ以上、尻尾をかめないようエリザベスカラーを着けて防御した。

 ノア君は、その後も猫風邪を引いたり、真菌に感染してハゲたり、下痢が続いたりした。ようやく健康を取り戻し、生後半年のときに去勢手術を受けた。そのときの血液検査の結果が「猫エイズ陽性」。

 猫エイズとは、猫免疫不全ウイルス(FIV)に感染することよって引き起こされる疾患のこと。ウイルスそのものの感染力はたいへん弱く、空気感染や接触感染はしない。また、人間にうつることもない。

 ノア君は猫エイズキャリアだが、発症はしていない。健康な猫と何ら変わることなく生活し、体重も約6キロ。大柄な体格に似合わず、たいへんおだやかな性格で、甘えん坊。やんちゃで、一緒にいると本当に楽しい。かわいい声でおしゃべりをしてくれて、猫と暮らす幸せを授けてくれる。

 元気になったノア君は、新しい家族との出会いを求めて、あちこちの譲渡会に参加した。初参加は生後8か月のときで、すでに大人猫のような立派な体格。声を掛けてくれる人はいたが、「猫エイズ陽性」と知ると、去っていく。残念な結果にもめげずに何度も参加するノア君に、2020年1月。運命の出会いがあった。

 Iさん(男性)と母親、人間ふたりと1匹の同居生活を始めたノア君は、環境の変化に驚き、初日の夜は大声で夜鳴きした。その後も、自分の居場所を探りながら、トイレ以外の場所でもウンチをするという粗相もして、不安な思いを伝えようとしていた。

 しばらくして、Iさんの部屋がお気に入りの場所となり、夜は一緒に寝る。帰りが遅いと、Iさんの机の上のものを全部、落としてしまうといういたずらをして、びっくりさせたこともある。帰宅を待ちわびるノア君に「もうすぐ帰ってくるよ」と、優しく声をかけてくれるお母さん。本当の家族になれるのかどうかを模索した2週間を経て、ノア君の気持ちは決まっていた。

 子猫だったとき、成猫に助けてもらったノア君は現在、3歳8か月(推定)。さまざまな困難を乗り越えて立派に成長。そして、本当の家族を見つけた。

(まいどなニュース/神戸新聞・加島 督枝)

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