20年前の作品がコロナ禍の今と不気味に符合… レジェンド日野日出志、トラウマ必至の怪奇漫画集

黒川 裕生 黒川 裕生

悪夢のようなストーリーとグロテスクな絵柄で、多くのいたいけな読者に忘れられないトラウマを植えつけてきたホラー漫画界のレジェンド、日野日出志。数ある傑作、怪作群から特にその「トラウマ」要素に焦点を当てた6作品を収録した単行本「トラウマ!怪奇漫画集」が11月16日、イカロス出版から発売される。中でも2020年を舞台にした「あしたの地獄−地球発2020−」は、隕石の衝突で文明が崩壊した後の世界で、わずかに生き残った人類に謎の奇病が襲いかかる…という昨今のコロナ禍を想起させる描写が印象的だ。20年前に発表された後は幻の作品となっていたが、奇しくもこの2020年、奇跡的に再び日の目を見ることになった。事件である。

収録作品は「水の中」「地獄の子守唄」「はつかねずみ」「ウロコのない魚」「あしたの地獄−地球発2020−」「二階屋の出来事」。作品ごとに、この本の編集を手掛けたオカルト研究家の寺井広樹さんによる詳細な解説、さらには貴重な創作秘話に迫る寺井さんと日野の濃厚な対談も収録している。

「AKIRA」だけじゃない!2020年を予言した日野作品

「あしたの地獄−地球発2020−」は2000年に創刊されたホラー雑誌「スーパーホラー」で1話読み切りとして連載が始まった。ところがこの雑誌が創刊直後に廃刊となったため、作品も打ち切りに。以来、残念ながらその存在は長く忘れられていたが、作中に出てくる「新種のウイルス」「原因不明の高熱で人々は次々と倒れた」という言葉には、2020年の今、新たな意味が付加されてしまったのを感じずにはいられない。

今年は東京五輪を巡る予言めいた描写で大友克洋の漫画「AKIRA」が大きな話題を集めたが、寺井さんは「“予言”という意味では日野先生のこの作品も負けていません」と胸を張る。「とはいえ、日野先生自身は『漫画ではよくある設定。たまたまですよ』と仰っていますけどね…(笑)」

寺井さんの謎の使命感「多くの人にトラウマを植えつけないと…」

小学生の頃から30年来の熱狂的な日野ファンという寺井さんによると、巻末に特別収録している「二階屋の出来事」も、あまり存在が知られていない名作という。「日野先生がご結婚されて、お子さんが生まれた年に発表されました。この年の作品に登場する女性は格段に美しく、怪しい魅力を放っているんですよ」と寺井さん。読んだ子供たちが恐怖のあまり散髪屋に行けなくなったという曰く付きの「ウロコのない魚」、単行本化の際にカットされた問題シーンも掲載した「水の中」など、ファンならずとも要チェックの内容に仕上がっている。

寺井さんは「子供の頃の僕自身が味わったように、あらためてたくさんの人に日野作品のトラウマを植えつけたいという思いでセレクトしました」と強調。寺井さんによると、日野は今、自作「死肉の男」を実写映画化すべく準備を進めているという。

「トラウマ!怪奇漫画集」は1600円(税別)。A5判、304ページ。

■日野日出志Twitter @hino_hideshi

■イカロス出版 https://www.ikaros.jp/sales/list.php?srhm=0&tidx=106&Page=1&ID=4849

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