台風で倒壊した高円寺の「ドリフうどん屋」跡地に「街の縁側」となる飲食店を!全宅ツイの挑戦

北村 泰介 北村 泰介

 「ドリフうどん屋」という珍妙なワードがSNSで話題になった。ちょうど2年前の9月30日に台風で店舗ごと倒れた東京・高円寺の立ち食いうどん店のことだ。ザ・ドリフターズのコントで倒れる建物のセットを連想した表現だが、それが今、再浮上している。当該地に、全国宅地建物取引ツイッタラー協会(以下・全宅ツイ)が新たな飲食店を建てようと今年9月からクラウドファンディング「台風で倒れた〝伝説のクソ物件〟を再建したい!」を開始したからだ。公式キャラクターのグリップ君に話を聞いた。

 その店はJR高円寺駅北口から徒歩1分以内の歩道沿いにあった個人経営の立ち食い店「うどん・そば 桂」。奥行きが約1メートルという狭さにも関わらず、安価でコスパの良いメニューでファンも多かった。

 全宅ツイはツイッターを通じて交流する不動産業者などによって結成され、法人化もされた。グリップ君は当サイトの取材に「『うどん・そば 桂』は全宅ツイの中に通っていた会員がおり、その会員が台風の時にお店がドリフのセットのように倒れた写真を撮っており、それを見た他の会員たちがこれは建て直さないといけないと話し合いました」と明かす。ちなみに、事故などに絡んで注目された不動産物件を表彰する全宅ツイ主宰の「クソ物件オブザイヤー」で、同物件は2018年に3位となった。

 現地を視察した。歩道と建物に挟まれた細長い土地だ。現在、店の跡地には雑草が生い茂り、立ち入り禁止の赤いコーンが4個置かれていた。測量図によると、間口10.11メートル、奥行きは西側1.13メートル、東側1.38メートル。規模的には自販機置き場等が妥当と言われても、飲食店の再建にこだわった。

 「地主さんのガードは高く、コンタクトが取れない状態でしたが、日参を重ねて徐々にコミュニケーションを取り、熱い意気込みとプロジェクトの意義を説いて真摯に向き合い、半年かけてこの土地をお借りすることに成功しました」

 そのこだわりは「立地」にあった。「我々不動産業者は『建物は土地のアクセサリー、不動産とは建物ではなく土地であり、立地である』と業界に入った際に教わります。小なりとはいえ、中央線・高円寺駅徒歩1分の立地。不動産の専門家たる私達がその専門性を持ち寄れば、あの細くて狭い土地で倒れた店舗を再び建て直せると考えたのです」。不動産のキモは「立地にあり」という信念に貫かれていた。

 高円寺という街の魅力もあった。グリップ君は「中央線沿線には全宅ツイ会員も多数住んでおり、親近感を持っておりました。何者にも縛られない、自身の夢を諦めずに追い求める大人が多くこの街におり、現実とのギャップを飲酒で埋める文化がこの街にはあります。事実、自粛期間中の4―5月も何度かこの街を訪れましたが、居酒屋はどこも通常通り飲酒客で溢れており、この街のポテンシャルの高さを実感いたしました」と指摘した。

 その街で人がつながる「コミュニティ=縁側」としての店を模索する。

 「一番簡単で有効な利用は自転車やバイクの駐輪場か自動販売機置き場。しかし、それでは高円寺駅前1分の立地が泣いてしまう。イメージは『縁側』です。道路に向かって開放された店内にふらっと人々がやってきて、ちょっとの間、腰掛けて、また次の人と入れ替わる。この縁側がコロナ禍で薄れた人と街との関係を結び直すきっかけの一つとなる事を願っています」

 その細長い「縁側」が再び台風で倒れないよう、一級建築士が構造強度を保つ計画を進めており、店舗としての魅力的な意匠設計との両立を目指しているという。

 店の詳細は未定だが、方向性については「換気の面からできるだけ開放性のある店舗を目指し、長時間の滞在ができないようなメニュー構成とします。併せてテイクアウトも同時に行えるようなオペレーションを検討しています」とコロナ時代を生き抜く道を模索。「ツイッターからリアルにゆるくつながれる場所としての運営を考えています」とも付け加えた。

 土地借用の契約期間は10年(延長の可能性あり)。グリップ君は「長く運営していきたいのですが、万一、経営がうまくいかなかった場合は再びクラウドファンディングで『高円寺の薄い店解体ショー参加権』を販売して、立つ鳥跡を濁さないようにしたいと思います!!」とユーモアを交えて今後を見据えた。

 予算は建築費が約500万円、厨房什器・内装・運転資金が約600万円。自己資金で不足分の500万円をクラウドファンディングの目標額として調達し、11月に着工して来年2月オープンを目指す。9月30日現在、支援額は700万円を大きく上回っている。高まる期待を追い風に、さらにグレードアップした店とすべく、その予算が増える可能性もあるかもしれない。

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