9月に入り、もうしばらく暑さを我慢すれば本格的な秋。みかんの美味しくなる季節だ。
みかんは果物かごなどに入れて誰でも触れる状態で保存することが多いと思うが、そういう光景を見て僕はいつも気がかりなことがある。それは「猫がみかんを食べても大丈夫なのか」ということ。
自宅に猫を飼っている方ならうっすら「猫に柑橘類はNG」という知識はあると思う。しかし、どの程度有害なのかということについては専門的なサイトを見回しても意見がまちまちでわかりにくい。「ちょっと気を抜いてみかんを近づけたせいで愛猫が不調に陥ってしまった」なんてことは避けたいものだが、はたして我々はみかんや柑橘類が猫にあたえる有害性についてどのように捉えればいいのだろうか?滋賀県近江八幡市「キャットクリニック」の小宮みぎわ獣医師にお話をうかがった。
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中将タカノリ:柑橘類が猫にあたえる有害性について専門的なサイトをいくつか確認したのですが、多少与えても良いとする意見もあれば一切与えてはいけないとする意見もあり、どれを信じていいのかわからなくなってしまいました。
小宮:全ての化学物質は一定の摂取量を超えると中毒になります。塩でも水でも大量に摂ると毒になります。
みかんの皮に含まれる芳香成分は文献を探すと中毒の報告があるので、人によって「みかんそのものが危険」と言ったり「みかんの皮の中の芳香成分濃度は薄いので大丈夫」と言ったりしているのだと思います。ただしみかんの皮から抽出してつくる精油はこの芳香成分が高濃度に入っているので危険度が高いでしょう。
中将:よほど大量に与えたり、高濃度に精製したものに触れなければ大丈夫ということですね。
小宮:猫は酸っぱい臭いが好きではない子が多いので、あまり食べたりすることは少ないのではないでしょうか?どのくらい…という数値は個体差によって異なるので明確には言えませんが、もし食べたとしても少量であれば問題ないと思います。ただしここで言う「少量」とは、猫(体重3~5キロ)にとっての少量です。猫にとっての5mlは、人間の感覚では50ml以上になります。その感覚でお考え下さい。
柑橘類にはいい匂いのする化学物質(芳香化合物と言います)が多く含まれています。この芳香化合物は複雑な構造の場合が多く、猫の肝臓では解毒出来ないために人間には何も症状が出なくても猫には中毒症状が現れることがあります。
中将:猫が柑橘類の成分を過剰摂取することで起こり得る症状をお聞かせください。
小宮:文献によるとよだれが大量に出て、沈鬱になり、体温が下がり、身体が思うように動かせなかったり、逆に全身が震えて発作のような動きをしたり…といったことが起こるようです。ですがこれらの報告は、柑橘類の中の芳香化合物だけを抽出濃縮したり、化学合成したものを配合したシャンプーや家庭用洗剤によるものです。柑橘類そのものの皮に少し触れたからと言って慌てることはありません。
猫の専門サイトで触れている方はあまりいらっしゃらないようですが、私としては皮についている農薬や防カビ剤などの化学物質の方が心配です。それらも芳香化合物同様に猫が解毒できない可能性があります。
中将:確かに農薬はそのままで動植物を殺傷する効果があるものなので恐ろしいですね。
小宮さんの身近でみかん、柑橘類を摂取したことで実際に猫が不調に陥ったという事例はありますか?
小宮:柑橘類を摂取して不調になった例は私の身近ではありません。柔軟剤を摂取したことによる突然死や肝炎、嘔吐下痢の消化器症状、神経症状はよくあります。ただし、化学的に明らかにそれが原因かを確かめることは困難です。最近は強い香りの人工香料を含んだ化粧品、家庭用洗剤などが多く、人間もアレルギーや喘息が増えているくらいなので、猫はもっと大きな影響を受けていると思われます。
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小宮さんのお話を総合すると、猫の飼い主が真に気をつけなければならないのはみかん本体よりも、我々の身の回りにあふれている「柑橘系の香り(芳香化合物)」のようだ。また人工香料が大量に含まれる物質や、農薬が付着した野菜、果物なども不用意に猫に近づけないないほうが良さそうだ。猫を飼うなら、猫にとって最低限健康的な環境を提供したいものだとあらためて考えさせられた。
なお今回、記事のイメージモデルとしてご協力いただいた猫ちゃんはらび君(6歳)。飼い主のmiccöさんのデザイン事務所で"専務"として日々癒しを提供しているそうだ。Instagram「またたびデザイン事務所」ではその愛らしい姿が堪能できるので、猫好きの方はぜひチェックしていただきたい。