関西出身の40代以上なら、印象深いCMで強く記憶に残る洋菓子チェーン・パルナス。2000年に営業を終えたパルナス製菓の流れをくむ企業が運営する喫茶店「モンパルナス」(兵庫県尼崎市)が、阪神尼崎駅構内に存在する。パルナスの“モスクワの味”を受け継ぐピロシキが名物で、販路拡大や通販にも注力。涙ものの一品を口にした人々の感想は?
「♩パルナス、パルナス、パルナ―ス」。関西ローカルで日曜朝に放送されていたテレビのアニメ劇場。番組内でしきりに流れていた、悲しげなメロディーのCMを覚えている人は多い。キャッチフレーズは「モスクワの味」。最盛期には、200店以上のチェーン店を数えた。1970年(昭和45)に開かれた大阪万博では、ソ連館にレストランを出店したという。
モスクワから招いた技術者直伝のケーキやピロシキで親しまれたパルナス製菓は、20年前に姿を消した。そんなパルナスのピロシキが、今でも食べられる店がある。阪神尼崎駅構内にある喫茶店モンパルナスでは、喫茶コーナーのほかベーカリーも併設。1個200円(税抜)のピロシキは根強い人気を誇っている。
モンパルナスは1974年(昭和49)、パルナス創業者の故古角(こかど)松男さんの弟・古角伍一さんが独立して開業。現在は伍一さんの長男・古角武司さん(60)が運営会社「パルナス商事」の社長を務める。当時の製法を守るピロシキは卵とタマネギ、牛ミンチが具材。塩とコショウの味つけは、パルナスの記憶とともに「関西人の思い出の味」とも称される。
コロナ禍で、店舗の客足は一時激減。ホームページなどで「存続も危うい状況」などと窮状を訴えた。創業46年目の危機に、同店のファンが通販やテイクアウトでの利用を呼びかけると注文が殺到した。デパート催事での出張販売や、6月からは阪急電鉄駅構内の「フレッズカフェ」各店にも販路を拡大。1日600―800個が売れるという。
モンパルナスが、あのパルナスゆかりの店であることを知らない人は多い。古角さんのもとには、懐かしすぎる味と“再会”した客からの感想が寄せられる。亡き両親や家族と、テーブルを囲んでパルナスのケーキやピロシキを食べた思い出。最近では通販を利用した高齢男性から「70年間パルナスを知っていましたが初めて食べました」とのメールが届いたという。
意外にも、CMでパルナスの存在を知りながら「店の前で泣いても駄々をこねても、親に買ってもらえなかった」「家が田舎で、近くにパルナスの店がなかった」などの理由で、初めて〝モスクワの味〟に触れる人も多い。
古角さんは「関西人だけだが、それぞれのパルナスの思い出がある。がんばって引き続きやるので、ピロシキを食べていただきたい。食べたことのない人はぜひ!」と呼びかけた。6月16日までは川西阪急の地階食料品売場、17日から23日までは大丸梅田店でも出張販売される。