コロナ禍による外出自粛や出勤者8割減を目指したテレワークの推進などで、あの満員電車がうそのように空いたJR山手線の車内。柔らかい春の日差しが差し込み、不思議とゆったりした時間が過ぎる中、恐ろしいほどの存在感を示す中吊り広告が話題になりました。それは江崎グリコのチョコレート「GABA」の広告。1編成に計132個の「枕」が天井からずらりと吊り下げられ、二度見せずとも目に飛び込んでくる圧の強さ。同社に聞いてみました。
その広告は、今年3月に発売したGABAシリーズの新作「GABA for Sleep」のもの。今月16日に掲出され始め、同社によると枕は「完全オリジナル仕様」で、サイズはたて32.4cm×横51.5cm×厚み11cm。シンボルカラーの青系の柄と白地に「大体の悩み、ぐっすり寝たら解決する説」「パソコンは社内でスリープできていいなあ」「早起きして余裕を持って出社する夢から覚めて、今。」「調査結果の説明がもはや子守唄。」など、思わずあるある!!と噴き出してしまいそうになるコピーが書かれ、何とデザインは24種類もあるそうです。
―ていうか、なぜ、枕だったのでしょう??
「GABA for Sleepは睡眠の質を高めるGABA成分が入っていますので、『眠り』の象徴的なイメージの『枕』をそのまま交通広告として掲出したら、インパクトがあり目を引く広告にできるのでは―と考えました。『電車で眠たい時に、頭の上に枕がふわふわ浮かんでいたら面白いかも…』と考えたのも選んだ理由の1つです」
「『睡眠の質向上』をビジネスマンに訴えたいという思いもあり、4月の新生活の時期に、眠くてうとうとしてしまいがちな電車内での広告が効果的だと考え、他の広告に負けずお客様に覚えていただくために、電車内広告でも車両ジャックというインパクト重視の方法にしました」
―にしても、この完成度!かなり時間がかかったのでは。
「はい。企画には約1カ月。枕制作には、サンプル制作や印刷・縫製含めて約1カ月半を要しました。本物の枕が車内に吊るされていてこそインパクトを持ってメッセージを訴求できるという信念のもと、枕の制作には大変苦労しました。実際には車内に本物の枕を吊るすことは出来ないため、本物のように見せるためのクリエーティブ担当者のこだわりを実現しつつ、電車内に実際に吊るす上でのチェックポイント(強度や重さ、観客の危険にならないような作りなど)をクリアするために印刷会社、JR東日本とたびたび打ち合わせを行い、ようやく納得できるものが出来ました」
―な、なんと…。すごいこだわりですね!
「そうなんです。布に印刷するため、商品の色を出すのにも苦労しましたが、職人さんたちが数多くのテストを繰り返して実物に忠実な色を再現することが出来ました。表面の生地も、いたずらなど触られるという事を想定して強度を考慮した結果、ポリエステル生地を採用。中の綿は吊るされても均等に膨らむように変形に優れたポリエステル100%綿を採用しました。とにかく、安全第一(いたずら等で引っ張っられても取れにくい、破れにくい)を念頭に置き、細部の仕様を繰り返し検討し、JR東日本の方が取付作業をしやすいよう強度を保ちつつ、極力軽量化を実現させました」
こうして、ものすごい熱量を込めて作られた枕広告ですが…実は今日30日で終了なのだとか。残念ながら「通常の広告物と同様、予備を含めて再掲示の予定はありません」(広報担当者)とのこと。なんとも切な過ぎる現実です。
同社でもコロナでイベントの中止など様々なところで影響が出ているといい、「恐らく当面は全世界的に困難な時期が続くかと思いますが、一日も早く事態が収束することを願っております」と担当者。ちなみに、カカオに含まれる「テオブロミン」という成分は、不安やイライラを鎮め、精神をリラックスさせる効果もあるのだとか。今最前線にいる医療や介護、物流や行政の方たちも、みんな、一日も早く枕を高くして眠れる毎日が戻りますように…!