新型コロナウイルスの世界的な感染拡大が続く中、イタリアでは現地28日時点で死者が1万人を突破するなど深刻な事態に陥っている。ミラノ在住のビジネスプランナー・安西洋之氏は当サイトの取材に対し、死亡者の増加傾向はまだ続くが、少なくとも新規感染者の動向と収束への道筋が見えてきており、「やっと長いトンネルの先が見え始めた」と明かした。その認識を踏まえ、現地リポートを寄稿した。
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2月20日に新型コロナウイルスのイタリア人感染者第1号が確認されてから、このおよそ1カ月で見える世界が瞬く間に変わった。3月28日現在の感染者数が9万2472人、死者数が1万23人、回復した人の数が1万2384人となっている。
幸いにも感染者数のおよそ80%を占める北部イタリアでの感染増加率はピークを迎えつつある兆候がある。ただ医療への負担のピークはおよそ1~2週間先であり、医療施設の充実度が劣るとされる南イタリアでの感染ピークもこれからと予測されている。気を許してよいことはまだ何もない。封鎖は相変わらず続く。
当初は北部イタリアの一部の県ベースの封鎖だった。が、3月8日には北イタリアの州ベースへと移り、11日には全国が封鎖対象となる。それ以降、物理的範囲だけでなく、移動可能な条件に関する制限も厳しさを徐々に増してきた。
さて移動制限とはどんなものか。原則、仕事の急用や自身の健康以外の理由では、自宅から外出できない。日常の生活に必要な食料品を買うための外出は許される。だが、それも自宅の近くでないと、不要な外出とみなされる。
また、スーパーの棚にある文房具やトイレの消臭剤も買えないようになっている。なぜならこれらの商品は生活に必須ではない(とされ)、これらを買い求める理由を言い訳に外出する人が増えるのを避けるためだ。
散歩も自宅から数百メートルの範囲が目安で、他人と一緒になってはいけない。したがって公園も閉鎖されている。
違反者には当初、最高でおよそ3万円の罰金か禁固刑が科せられるとされたが、1週間ほど前から罰金額も50万円に近くなった。一見、人通りが消えたと思われる街の様子からは窺い知れないが、それだけ違反者の数が目に余ると行政が判断した結果だ。
この移動制限の規制の法的解釈をみていると、この国で何が大事とされているかが分かる。下記は当地の新聞記事にあった解説例である。
例えば、年老いた祖父母に孫が元気な顔を見せにいくのは禁止である。毎週末、親子のそれぞれの家族が集まって食事をする習慣がある社会にあって、この規制はお互いにとって辛い。逆にいえば、それだけ生活習慣にインパクトがある。
だが、親が自律した生活ができず、誰の手も借りられないような状況であれば、子どもが親の家を訪ねるのは奨励される。
仮に離婚した夫婦で、元奥さんと子どもが一緒にある市に住み、元夫が別の市に住んでいるとする。その場合、元夫が子どもの顔を見る為に異なった自治体の境界線を跨ぐのは許される。今回の移動規制と別れた子どもに会う権利の2つをはかりにかけ、後者を優先させるとの考えだ。ただし、この場合、警察による検問で離婚を証明する書類を携帯するよう推奨している。
こんな按配だ。
自治体により規制の範囲や解釈が異なる可能性があるが、市民にとっての「必要最低限の生活とは何か?」が示唆されている。
自宅で隔離生活をしながらも、学べるものはある。
◆安西洋之(あんざい・ひろゆき)1990年からミラノと東京を拠点に活動するビジネスプランナーとして、欧州とアジアの企業間提携の提案、商品企画、販売戦略などに参画。モバイルクルーズ株式会社代表取締役、De-Tales Ltd.ディレクター。最新著書は『「メイド・イン・イタリー」はなぜ強いのか?世界を魅了する<意味>の戦略的デザイン』。