1つの夢の終焉(しゅうえん)は、次の夢への始まり。不断の努力が、それを実現させた。「小さい頃から警察官へあこがれはありました。この制服を着られて良かったと思います」。元巨人・加登脇卓真氏(30)。現在は警視庁・第四機動隊に所属する警察官だ。
北照高を経て05年の高校生ドラフト3巡目で投手として巨人へ入団。同期入団には辻内崇伸、脇谷亮太、山口鉄也らがいた。「原監督(当時)と一緒にユニホームを着ているなというのが思い出に残っています」。プロの夢をかなえた当時の記憶は、今も鮮明だ。
ただ、そのプロ生活は3年で幕を閉じる。08年オフ、加登脇は21歳で戦力外通告を受けたが、野球への思いは簡単に断ち切れない。
クラブチーム、そして10年から野手として独立リーグの四国・九州アイランドリーグ、香川でプレー。だが、決断の時は迫っていた。11年には長女も誕生し「独立リーグは給料も少ない。家族もいたし、年齢もあって次に進もうという気持ちになった」と野球を断念。ここから次の夢への挑戦が始まった。
選んだのは、プロ野球選手とともにあこがれであった警察官の道。「今まで勉強をほとんどしたことがなかったので、本とかを買って、時間を作って勉強をしました」。アルバイトをしながら約1年、試験勉強に明け暮れる毎日を送った。
くじけそうになる気持ちを支えたのは家族の存在だ。「妻が後押しをしてくれました。不安もあり、受かる保証もない。それでも家族のために必死でした」。アルバイト先で携帯から合格の結果を確認した時は「鳥肌が立ちました」という。
努力の日々は、思いがけず野球との縁もつないだ。12年に警視庁に入庁後、交番勤務を経て15年から“鬼の四機”と言われる第四機動隊へ異動に。この第四機動隊には09年に設立された警視庁野球部があり、加登脇氏も所属することになった。
「仕事をしながら野球ができる環境は限られている。すごく幸せなこと。また野球をやれてうれしいですね」
主な職務は総理官邸や国会議事堂など、重要施設の警備。「1日1日、何も起こらなかったというのが一番のやりがい」と緊張感のある毎日だ。職務が優先となるためグラウンドでの練習は多い時でも週2回。非番や夜勤明けの時間での自主練習が中心となる。
そんな状況も「大変だと思ったことはない。好きな野球をやらせてもらっているので」と充実感を漂わせた。チームは15年に都市対抗予選で二次予選に進出。昨年は東京都春季クラブ大会で準優勝。「強くなってきていると感じている」と十分な手応えもある。
もう1つ、鮮明に残るプロ時代の記憶。それは苦しい2軍時代を励ましてくれたファンの声だ。「今は直接、感謝の気持ちを言うことはできないですけど、警察官としての仕事を果たして応援してくれていた人たちに恩返しをしたい」。警察官として、野球人として、今も次の夢へと走り続けている。
(デイリースポーツ・中田康博)