大阪に路面電車の路線がある。かつては大阪市内を縦横に走り、市民から「チンチン電車」と呼ばれて親しまれていた路面電車も、いまは阪堺電気軌道・通称「阪堺電車」だけになった。
堺市の浜寺駅前から北上して大和川を超え、大阪市内に入ってきた電車は、住吉で阪堺線と上町線に分かれる。阪堺線は恵美須町へ、上町線は天王寺駅前までの路線だ。その阪堺線の始発である恵美須町停留場の駅舎が新しく建て替えられて、昭和レトロの雰囲気をたたえる古い駅舎は1月いっぱいで廃止される。そんな恵美須町停留場の姿を撮影した美しい動画がTwitterに投稿され、話題になっている。
投稿したのは東京で活動するデザイナーの、オギワラナオスケさんだ。オギワラさんは鉄道趣味人を自負し、各地方の鉄道を撮影。「特急ぬめり(@NumeriExpress)」というハンドルネームで、Twitterに投稿している。恵美須町停留場の動画からは、阪堺電車に対する深い愛情とともに今の姿を残しておきたいという強い使命感も感じる。
阪堺電車の撮影は、2019年12月下旬に二晩かけて行ったという。公開されている動画には一部、同年春に撮影したシーンも使われている。
撮影から編集まで1人でこなすオギワラさんが最も苦労したのは、「時間が限られていること」だった。動画のイメージを夜のしっとりした雰囲気で統一するため、日の入りから終電までのわずかな時間にいくつもの撮影スポットを周り、恵美須町から我孫子道間を乗車して往復。夜が更けてきたらあべのハルカスの展望台にあがって、営業が終わるまで撮影した。全般に「大阪らしさ」を感じられる構図にこだわって、提灯の並ぶ住吉大社、派手な黄色い看板のスーパー玉出、通天閣などの映像も盛り込んだ。
「阪堺電車は5年ほど前から、大阪を訪れたら必ず立ち寄るお気に入りの路線です。(恵美須町停留場が新しくなることについて)歴史の生き証人ともいえる風景がなくなってしまうのは寂しいですが、新しくなった駅舎の周りが、これからどんな風景に替わっていくかも楽しみです」(オギワラさん)
オギワラさんが動画撮影を始めたのは10年ほど前から。編集することを前提に撮り始めたのは、ここ2~3年のことだ。
これまでに最も愛着のある映像は何かを尋ねると、「関西でなくて恐縮ですが、函館の夏まつり期間にだけ走る“花電車”です」という答えが返ってきた。「街ゆく人たちも電車の運行に携わる人たちも、みなさん生き生きと楽しそうで、祭りの高揚感が伝わってくる映像です」。
さて、恵美須町停留場に話を戻すと、2月1日から新しい駅舎で運行が始まる。古い駅舎はすでに一部のエリアが立ち入り禁止になっていて、ロープが張られていた。運行されている姿を見られるのは、1月いっぱいだ。