千葉県に住む山口さんは、猫が苦手だった。しかし、ひょんなことで怪我した子猫を保護することになり、面倒を見ることになった。最初は、ケージの中にいる子猫にごはんを与えるのにも苦労したが、世話をするうちに情が移ってきた。
死んでいるように見えた子猫
2005年8月15日、山口さんは、夜8時ころ自転車に乗って夫婦で出かけた。工場のような会社の前を通りかかると、小さな黒っぽい塊があった。自転車を停め、ご主人が「あれ、これ、なんだろう」と言って近付くと、子猫がうずくまっていた。子猫は死んでいるように固まって動かず、「死んでいるのかな」とつまみあげると、まばたきをした。夫妻は、「生きてる!生きてる!」と喜んだ。
子猫は、頭からたらーっと血を流していた。近くにペットの犬が通っている動物病院があったので診てもらった。もう診療時間は過ぎていたが、獣医師は診察してくれた。生後2、3カ月。怪我はたいしたことなく、猫同士の喧嘩か何かで引っ掻かれたのだろうということだった。
実は、猫が苦手
山口さんは、動物病院に連れて行けば預かってくれると思っていた。
「でも、そういうことを言う人が多いので預かれないと言われたんです。一週間くらい様子を見てください。里親を募集するのであれば、病院に張り紙をしてお手伝いしますと言われました。私は猫が苦手で触れないし、早く一週間経たないかなと思いました」
山口さんは、実家で犬を飼っていたのだが、猫が犬をからかいに来たり、引っ掻いたりしたので、嫌な印象を持っていたのだ。
「猫のこともまったく知らなくて、男の子だったら犬のように立ちションするのかと思っていました。だから、壁にもペットシーツを貼っていたんです」
職場の人や友人に、「猫はいらない?」と聞いてみたが、誰も欲しいという人はいなかった。貼り紙をするのも億劫だった。
情が移って
動物病院でごはんをもらってきたが、子猫は、緊張したのか2、3日は何も食べなかった。温めたミルクも飲まないし、動いた気配もなく、用も足していない。「もうだめかなと思いました。でも、帰宅したらペットシーツが丸めてあって、オシッコをしていたんです。ごはんも食べてありました」
山口さんは、ケージの中にごはんを入れる時もおっかなびっくり。
「いきなり飛びかかってきたらどうしようと思ったんです。水やごはんはさっと入れ替えました。でも、お世話をしているうちに情がわいてきたんです。ちょいちょいと触ってみたら普通に触らせてくれて、徐々に抱っこもできるようになりました」
山口さんはコーギー犬のコースケくんを飼っていたが、コースケくんも「何?何?」と寄ってきて、すんなり受け入れてくれた。
「犬か猫、どちらかがだめなら飼えないと思いました。」
子猫を飼うことにした山口さん。名前は「ニモくん」にした。
ニモくんは、一匹狼タイプ。人も猫も苦手だ。犬のコースケくんにだけは心を開いている。淋しかろうと2匹目の猫を飼ったが、シャーシャー怒ってなかなか受け入れなかった。冷蔵庫や食器棚の上に1匹でいるのがお気に入り。そこに他の猫が来たら「ぶっとばす!」くらいのオーラを出しているという。