2017年、ニューヨークの「メトロポリタン美術館」でおこなわれた『日本の竹工芸:アビー・コレクション』展。観客の度肝を抜いた、世界有数の日本の竹工芸品のコレクションと、四代田辺竹雲斎の巨大な竹インスタレーションが、「大阪市立東洋陶磁美術館」で展示される。欧米で高まる日本の工芸への熱視線に気付いていないのは、日本人だけかもしれない。竹工芸のアートの驚くべき「美」を目撃しよう。
NYで47万人を驚かせた巨大竹インスタレーション。作家は田辺竹雲斎
展覧会場でまず驚かされるのが、1階ロビー、吹き抜けから2階の展示室入口にまで届く巨大な竹の立体作品。文字通り写真に撮れないスケール、そして生きているかような躍動感。ゴツいだけじゃない。近くで見ると繊細に編まれた竹ヒゴが光を透過して刻々と陰影を変化させ美しい。
制作した四代田辺竹雲斎は2016年パリの「ギメ東洋美術館」、2019年サンフランシスコの「アジア美術館」でインスタレーションを制作。アートとしての竹工芸の存在感を印象付けた。
「家業では煎茶の道具を作ってきましたが、海外で竹の良さを伝えるために、このような形のアートにしました。竹は清らかさのシンボルで、煎茶の美意識にとって重要なものです。また、まっすぐで凛としていて、再生のシンボルでもあります」。アートであり、手工芸品でもある。そんな竹工芸の特質は、この斬新なインスタレーションでも同じ。制作はすべてが手作業だ。
8人がかりで2週間。ひたすら編む!インスタレーション制作現場
スタッフが黙々と竹を編むこと2週間。関西初の規模となるこの竹インスタレーションは現地で制作された。素材は竹ヒゴのみ。それも「畳一畳くらいのスペースに収納できるくらいの量」だそう。軽くて、多くの道具を必要としないという竹工芸の長所は、海外で設置するアート作品となったときに、大きな強みになるわけだ。
展示が終われば、バラして竹ヒゴに戻る。今回使われた竹ヒゴは、ニューヨークやパリで使われたものが一部再利用されている。使い込まれた竹と新しい竹が重なって描かれる景色は、作品制作のなかで再生される竹の命も表している。この「循環する自然」も、竹雲斎氏の作品コンセプトだ。
日本の竹工芸が海外でたどった、工芸からアートへの道
海外での竹工芸の評価の高さに比べて、日本では悲しいほど竹工芸への理解が薄い。素材として親しみがありすぎなのが要因だろう。ここで、竹が海外でコレクションされ、アートになるまでの歴史をちょっとご紹介。
古くから生活用具だった竹が鑑賞の対象となったのは、中国から仏教とともに茶の湯が導入されたことから。美と高潔さを愛する中国の文人たちにとって、生命力に満ちて清らか、まっすぐな竹は、人生の理想を体現する存在。茶道具にも竹を愛用した。この美意識を受け継ぐ煎茶が17世紀の江戸時代、大阪を中心に流行し、煎茶席のための竹の道具づくりが洗練を極めた。
明治時代に入って、欧米で開催された万国博覧会などを通して超絶技巧の竹の工芸品が海外で人気を呼ぶ。その後、欧米で竹工芸のコレクションが充実し、近年ではコンテンポラリーアートのマーケットでも評価が高まるなど、「日本だけが日本の竹工芸を知らない」逆転現象が生じているといっていい。
今回展示される、アメリカのアビー夫妻のコレクションは、日本の近代から現代作家までの竹工芸の歴史と技巧を一望にできる圧巻の質と量で、我々が知らなかった竹工芸の世界に入門できる。
実用品であるという思い込みに加えて「竹って、工芸じゃないの?アートなの?」というカテゴリー論も日本での竹の評価を邪魔してきた。鑑賞のコツはひとつだけ。まずはアビー夫妻が集めた傑作たちと対面してほしい。コレクションの情熱をかきたてた、竹作品の造形と技巧のすばらしさ、心を洗う竹の清々しさが、日本人の竹への先入観を洗ってくれる。