「雑草魂」…たくましいイメージ、実は間違い? 「競争に弱い」「エリート」意外な雑草の一面

樺山 聡 樺山 聡

 「雑草魂」。かつて流行語大賞に選ばれ、今でも新聞のスポーツ面で時折見かけるこの言葉。ひょっとしたら間違いかもしれない。

 「強い。たくましい。エリートではない。『雑草魂』は、そんな意味で使われると思うのですが、果たして本当にそうなのでしょうか」。そう語るのは、京都大の雑草学研究室で研究する冨永達教授だ。

 そもそも雑草とはどういったものを指すのか。

 冨永先生によると、雑草とは「かく乱される場所に育つ草本植物」なのだそう。「かく乱」とは、外部からの力が加わるという意味で、例えば人が土地を耕したり、建物を建てたりすることを意味するらしい。登山道は人が踏みつけるので雑草が生えるが、森の中には生えないということだ。

 「予期せぬかく乱に備え、短い間にタネを付ける種類もあります。土の中には無数の雑草のタネが休眠状態で待機していて、掘り返されるなどの変化に伴って活性化したタネが新たな芽を出す。だから、抜いても抜いても生えるんです」

 つまり、「災害」がいつ来てもおかしくない危険地帯に生息する草なのだ。と聞けば、やっぱり「強くてたくましい」から、「雑草魂」の使い方は合っているじゃないかと思ってしまうが、冨永先生は雑草が持つ「弱さ」を紹介する。

 「雑草は競争に弱いからこそ、ほかの植物が踏み入れない場所を選んでいるのです」。冨永先生は「エリートでない」という点にも疑問符を付ける。

 そのことを示す例が「鉄道草」。鉄道草は、線路脇によく見かける「ヒメムカシヨモギ」。この雑草は、日本が開国して間もない明治初期に海外貨物に紛れて入ってきたとされる外来種で、維新とともに到来したことから「御一新草」とも呼ばれるそう。鉄道網の発達で全国に広がった。

 「ヒメムカシヨモギの優れた点は、日当たりが良く、ほかの植物との競争が少ない場所を見つけたこと」と冨永先生は言う。「外来植物はそもそもが、気候から何から全く違う異国でさまざまな障壁を乗り越えて繁殖を遂げた選ばれしものであり、その中で特に優秀なエリート中のエリートとも言えます」

 誰もが押しかける人気の場所ではなく、ともすれば敬遠されがちな「荒野」に輝く居場所を得る。「雑草魂」には、そんな意を加えてもいいかもしれない。

 冨永先生は言う。「就活で失敗して落ち込んだ学生には、そんな雑草の特性を伝えるようにしています」

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