全国的に日本語教室に通う外国人も増えていますが、佐藤さんによると「非漢字圏の学生さんは、例えば年齢の『齢』という字が『歯今』に見えて、『はいま』と読んでしまうなど、漢字の切れ目や似ている漢字の違いを見分けるのに苦労しています。漢字圏出身でも、中国語は基本的に一つの漢字に一つの読み方。音読み・訓読みに戸惑っている様子です」と言います。
日本語が分からなければ英語なら…と思いがちですが、2008年に国立国語研究所が全国の定住外国人1662人を対象に行った調査によれば、日常生活に困らない程度に英語ができる人は44%、日本語ができる人は62.6%。佐藤さんも実際、授業で英語で説明した際、非英語圏出身の学生から「英語は分からないからやめてほしい、日本語で教えてほしい」と言われたそうです。大学院の留学生でも「英語はついていくのが大変」と漏らしていたといい、「英語だけの説明では『英語ができる人のほうを向いていて、自分たちは置いていかれている』という印象を持つ人も少なくない。ホスピタリティやおもてなしの面からいっても、『外国人には英語でいい』という対応は、不十分ではないでしょうか」と疑問を投げかけます。
「やさしい日本語」は1995年の阪神・淡路大震災を機に、災害時に外国人にも分かりやすい日本語を―と弘前大の佐藤和之教授らが提唱し、全国に広がっています。外国人だけでなく、障害のある人や子どもも見据えた「ことばのユニバーサルデザイン」と言われることも。「例えば『左利き(マイノリティ)用ハサミ』ではなく、右利きも左利きもみんなが使えることが大切だと思います」と佐藤さん。「『やさしい日本語』には、形式の『易しさ』と気持ちの『優しさ』の2つの意味が込められています。相手の立場に立って、伝わりやすい言葉で伝えることは、コミュニケーション全般に必要なことだと思いますし、『この表記を必要としているのはどんな人なんだろう?』と想像して伝え方を考え直してみることは『やさしさ』の第一歩ではないでしょうか」と訴えます。
ついつい、言葉も自分の物差しや価値観で「分かるだろう」と思って使ってしまいがち。でも、難しい言葉を易しく言い換えるって、実はすごく頭を使いますし、本当に意味を理解しているかも問われます。もちろん言い換えは一つとは限らないはず。どうやったら、どんな人にも伝わるのか、考え続けることが大切なのかもしれません。
「やさしい日本語」を解説したホームページはこちら。http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/kokugo/EJ1a.htm