今年で連載50周年を迎えた漫画「ゴルゴ13」の原画などを展示した展覧会「さいとう・たかを ゴルゴ13 用件を聞こうか……」が神奈川県の川崎市市民ミュージアムで11月30日まで開催されている。同作はハードボイルドな“男の美学”が詰まった作品というイメージがあるが、実は女性にささげられた作品であるという思いを、作者である漫画家のさいとう・たかを氏が打ち明けた。その象徴的な登場人物であるエバ・クルーグマンを通して、女性に向けられた作者の思いに迫った。
「男なんて“ついで”ですから」
会場は「5章」に分かれており、そのうちの第3章のテーマが「女性」。ゴルゴと出会った女性100人の姿が壁一面に飾られている。その中でフィーチャーされているのが、1974年2月、「ビッグコミック」に掲載された第81話「海へ向かうエバ」。初公開となる原画15点を通して、物語を会場で読むことができる。
エバは敏腕の女性暗殺者で凶器は針。すれ違いざまに相手の“ぼんの窪”を一刺しして即死させる。「仕掛人 藤枝梅安」ばりの必殺技だ。殺されたのか、突然死なのかも分からないまま、絶命したターゲットを残して人の波に消えていく。そんな非情な女性スナイパーがゴルゴとの出会いによって人間性を回復し、硬く鋭い表情が少女のように変わっていく姿が描かれる。
さいとう氏は「間違いなく女性は人間としての生命の根源ですから。本質的に女性は男の上にいるという意識がある。男なんて“ついで”ですから(笑)。自分の母親が亡くなったのは私が18歳の時でしたけど、母(なる存在)はすごい生命だと。だからずっと女性は尊敬しております」と吐露。「ゴルゴ13」は女性へのリスペクトに貫かれていた。
エバの物語に戻ろう。人間に戻った殺し屋には終焉(死)が待っている。ラスト近く、エバが自身の武器である針を収めたペンダントを排水溝に捨てるシーンには一切のセリフも独白もない。ゴルゴに額を撃ち抜かれたのであろう、エバの最期の場面も含め、言葉を排した無言劇に漂う哀しさや切なさを、さいとう氏は静ひつなタッチの筆で描き上げた。