壁画の“処分”を巡って東京大学に対する批判の声が高まっている。東大本郷キャンパスの食堂に飾られていた画家・宇佐美圭司氏の壁画が改修工事に伴って処分されたことを問題視する声がSNSで拡散されている。「宇佐美圭司壁画処分問題」のハッシュタグも付けられ、27日にはツイッターのトレンドに入った。その“炎上”の背景を追った。
宇佐美氏は大阪・天王寺高出身で上京後、1960年代から画家として活躍。米国の抽象表現主義の影響を受けながら、欧米でも高い評価を得た。70年の大阪万博では「鉄鋼館」の美術監督を務めた。福井県に移住し、2012年に72歳で亡くなっている。東大の壁画は安田講堂前の地下にある中央食堂で77年から飾られていた。
食堂の改修工事は17年8月から始まった。今年3月末のリニューアルオープンを前に、この壁画を気にした人が東大消費生活協同組合に「今後の行方」をウェブ上で質問。同組合は3月15日付で「新中央食堂へ飾ることができず(全体にわたって吸音の壁になることや、意匠の面から)、また別の施設に移設するということもできないことから、今回、処分させていただくことといたしました」と返答。この対応についてSNSなどで怒りや残念がる声が噴出した。
脳科学者の茂木健一郎氏は「文化的遺産についての意識を大切にすべき大学で起こったこととして、一つの『スキャンダル』だと思います。関係者の『意識の低さ』が本当に残念です。大学という場は歴史の記憶をもっと大切に育んでいかなくては」とツイート。
現代美術家・会田誠氏は「日本では芸術の歩み・歴史が蓄積されない感じがあまりに強すぎますねえ。すぐに廃れる流行語みたいな、時代時代の単発的なトピックスみたいな扱い」などと嘆いた。
その会田氏の協力も得て、昨年、ピカソの「ゲルニカ」級の巨大壁画「樹海」を完成させた“特殊漫画家”根本敬氏はデイリースポーツの取材に「何十年も同じ場所にあった作品だけに『自分が引き取る』と声を上げる関係者が1人か2人でもいなかったのかと思います」と指摘。「あくまで僕の場合ですが、描き上げた時点で作品は完結しているので、捨てられたとしても気にはならない。故人である当事者は今回の件をどう思われているか」と思いをはせた。
同組合に問い合わせたが「担当者が不在」とのことだった。いずれにしてもウェブで公表された“処分”という事実は変わらない。改修後の食堂に入った。純白の白い壁に美術作品があったとは思えない。何もなかったように時代は流れていく。そう痛感した。