“世紀の一戦”と評された辰吉との死闘から間もなく24年。ボクシング元WBC世界バンタム級王者の薬師寺保栄さん(50)はタレント、俳優業を経て現在、ジムの会長として世界を夢見ている。11月25日には7戦全勝の“秘蔵っ子”森武蔵(18)がWBOアジア・パシフィック・フェザー級王座に挑戦。勝てば世界ランカー入りが濃厚で、夢が現実味を帯びてくる。
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名古屋のど真ん中、中区新栄に「薬師寺ボクシングジム&フィットネス」がある。開業は2007年4月3日。立ち上げの際は、同世代で仲のいい元世界王者の井岡弘樹さんに相談したという。
「前から38歳でジムをオープンしようと思っていたんです。18歳でデビューし、27歳で引退。今は自分以上の選手を育てることが目標です。期待の選手もやっと現れました」
日焼けしたところは現役の頃と変わらないが、表情はふっくらとして穏やか。25日には「期待の選手」である森武蔵が、愛知県刈谷市のあいおいホールでWBOアジア・パシフィック・フェザー級王座に挑戦する。
熊本県出身の森は左ストレートを武器に7戦7勝(5KO)の戦績。対するフィリピン王者リチャード・プミクピック(28)は31戦と経験豊富だが、薬師寺さんは「キャリアがあるヤツとどう戦うか。勝てない相手ではない」と断言。世界を見据え、自身が現役のころにつけていた「練習ノート」を手渡すほど力が入っている。
そんな薬師寺さんにとって、運命の試合が1994年12月4日、名古屋レインボーホール(現日本ガイシホール)での辰吉丈一郎との一戦だった。日本ボクシング史上初の日本人世界王者同士の対決。異例の入札で3億4200万円マッチとなり、ボクシングファンの枠を超えて酔狂のように盛り上がった。
「あのときは練習先のロスにも取材陣が押しかけ、試合の2週間前に帰国した空港でもえらい騒ぎでした。下馬評はほとんど辰吉勝利でしたが…」