空き家対策の切り札は“楽しさ” 「足りないものは、まちを使う」

二階 さちえ 二階 さちえ
くすのき荘2階のラウンジ。このほかにシェアキッチンや共用シャワーなど、山田荘に足りない機能を補う設備が整えられている
くすのき荘2階のラウンジ。このほかにシェアキッチンや共用シャワーなど、山田荘に足りない機能を補う設備が整えられている

 山田荘の入居者はくすのき荘のメンバーでもある。美術家や演劇人が多く、展覧会やイベントでくすのき荘を使うほか制作用に個人ブースを借りることも。共用キッチンやシャワーも日常的に使用する。自室にない機能を歩いて数分のシェアスペースで得る=まちを使う木賃文化が、ここでは実践されている。

 メンバーに共通するのは“不便をも楽しむ姿勢”だ。1月末、くすのき荘1階ロビーにさまざまな物品が並んだ。まちづくりグループ『みそのわ』による、地域に開かれた物々交換会。大通りに面したガラス戸は開け放たれ、持ち寄られた陶器や布地が土間に敷かれたシートに鎮座する。通りかかる老若男女はみなチラチラと視線を送り、ロビーに入って品物を手に取るグループも。

 みそのわの本多麻衣さんが「世代を超えて集まる場をつくり“お互いさま”の関係を作るのが会の目的です」と話す。息子と店番していたフジタナツコさんは「くすのき荘は、この寛容さがいいですね」とにっこりした。

 地域の実情を「隠れ空き家が多いですよ。6部屋のアパートで入居はひと部屋だけとか、日が暮れて灯がつくとよくわかります」と山本さん。管理者不明の建物も多く、地元の不安の種だと明かす。

 そんななか、くすのき荘周辺ではメンバーのひとりが隣接物件を借りて音楽スタジオをつくるなど新たな動きも。まちのお荷物だった空き家は、人が集まり何かを生み出すほがらかな磁場となった。「空き家を使って楽しいコトを起こす、企む。それで自分のまちがちょっぴり楽しくなるかもしれません」山田さんの言葉に「仲間を集め、用途を住居に限定しないで自由に使ってみる。そのことで場が生きてくると思うんです」と山本さんが続けた。

 “楽しさ”でまちを変える。小さくとも熱をはらみ、周囲を巻き込むこのエネルギーは、官製のそれとは違う新たな空き家対策の切り札になるかもしれない。

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