tl_bnr_land

拡大から再編への岐路 日本企業の中国ビジネス 過度な依存から脱却、「チャイナ・プラス・ワン」というリスク回避

和田 大樹 和田 大樹

日本企業の中国事業が、大きな転換局面を迎えている。帝国データバンクが2026年9月28日に公表した調査によると、2026年6月時点で中国に進出する日本企業は1万118社となった。

2024年の1万3034社から2916社、22.4%減少し、統計データのある2010年以降で最も少ない水準となった。過去最多だった2012年の1万4394社と比べても約3割少ない。さらに、2024年から2026年にかけて新たに中国へ進出した企業が1221社だったのに対し、撤退・所在不明となった企業は4137社に達している。日本企業の中国ビジネスは、拡大から再編へと明確に局面を変えている。

この背景を考えるうえで重要なのが、単純な中国経済の減速だけではなく、日中関係を取り巻く地政学環境そのものが変化していることである。中国は日本にとって最大級の貿易相手国の一つである一方、米中対立が長期化するなか、日本企業は中国との経済関係を従来と同じ前提で維持することが難しくなっている。

政治と経済の切り離しが困難

特に大きいのが米中戦略競争である。米国と中国の対立は、関税をめぐる貿易摩擦から、半導体、人工知能、通信、重要鉱物など先端技術と戦略物資をめぐる競争へと広がっている。米中双方が自国の安全保障に直結すると判断する分野で規制を強化すれば、中国に生産拠点や調達網を持つ日本企業も、その影響を受ける。中国で生産し、米国を含む第三国へ輸出するという従来型のグローバル・サプライチェーンは、米中関係の変化によって地政学的なリスクを抱える構造になったのである。

台湾情勢も無視できない。台湾海峡で緊張が高まった場合、影響は台湾だけにとどまらず、日本の南西地域や東シナ海、さらに東アジアの海上交通にも及ぶ可能性がある。日本企業にとって中国に工場を置くことは、単に中国国内の景気や人件費を見極める問題ではなく、有事を含めた地域情勢の変化によって物流や部品調達、従業員の安全確保などが影響を受ける可能性を考慮する問題になっている。

日中間にも安全保障上の懸念は存在する。尖閣諸島をめぐる問題に加え、東シナ海では中国の活動が続いている。さらに、中国の軍事活動は台湾周辺や南シナ海にも広がっており、日本企業が事業活動を行う東アジアの地政学的環境は、以前より複雑になっている。こうした安全保障上の問題が経済関係にも影響を及ぼすことで、企業は「政治と経済を切り離して考える」ことが難しくなっている。

「チャイナ・プラス・ワン」というリスクヘッジ

また、経済安全保障という考え方が企業経営に定着したことも大きい。重要物資や重要技術について、一つの国や地域への過度な依存を避けることが重視されるようになり、中国に集中していた生産や調達機能を日本、東南アジア、インドなどへ分散させる動きが進んでいる。これは中国市場そのものを放棄することとは異なる。中国を重要市場として維持しながら、生産や調達については中国以外にも選択肢を持つという「チャイナ・プラス・ワン」の発想である。

実際、今回の調査でも、中国から日本企業が一斉に撤退しているわけではない。中国は巨大な消費市場であり、販売、研究開発、サービスなどの拠点として依然として重要である。今回の調査でも、中国進出の目的は従来の低コスト生産から、中国市場向けの販売や高付加価値製造、研究開発などへ変化しているとされる。つまり、日本企業の中国離れは、中国市場そのものからの全面撤退というより、中国への依存度を引き下げる動きとして捉える必要がある。

それでも、今後も中国拠点の整理が続く可能性は高い。米中対立、台湾海峡をめぐる緊張、東シナ海の安全保障環境、経済安全保障政策といった問題は、いずれも短期間で解消する性質のものではないからである。日中関係が一時的に改善する局面があったとしても、こうした構造的な要因まで消えるわけではない。

その意味で、今回の2916社の減少は単なる景気循環の結果ではなく、日本企業が中国事業のリスクを従来より広い視点から捉え始めたことを示す動きといえる。今後の焦点は「中国から撤退するか、残るか」という二者択一ではない。中国を重要市場として維持しつつ、地政学的な不確実性に備えて生産、調達、物流、人員配置をどこまで分散できるかである。米中対立と台湾情勢が続く限り、日本企業による中国事業の縮小・再編と、中国への過度な依存を避ける動きは今後も続くとみられる。

まいどなの求人情報

求人情報一覧へ

おすすめニュース

新着ニュース