フルタイムで働くAさんは、保育園から子どもが発熱したと連絡を受けて会社を早退しました。しかし帰宅して熱を測ると平熱で、本人も元気そうです。
発熱は一時的なものだったようですが、保育園のルールで解熱後24時間が経過していないと子どもを預けられません。しかし翌日どうしても外せない仕事があったAさんは、子どもを義母に預けて出社することにしました。
義母に預ける際、Aさんは「小麦アレルギーがあるので、このお弁当とお菓子を食べさせてください」と、アレルギー対応のお弁当とお菓子を手渡しました。
義母が「わかったわ~」と快く引き受けてくれたため、Aさんは安心して出社しました。ところが午前11時頃、子どもがアレルギー症状を起こして病院にいると会社に連絡が入りました。Aさんが急いで病院に駆けつけると、義母は「おやつにクッキーを食べさせた」と言うのです。
驚いたAさんは「小麦アレルギーがあると伝えたのに、なぜクッキーを食べさせたんですか」と問い詰めると、義母は「だってアレルギーなんて気持ちの問題でしょ?ちょっとくらい食べた方が治ると思ったのよ」と言い放ちます。
Aさんは子どもに辛い思いをさせた申し訳なさと、義母への怒りが収まりません。アレルギーへの理解のない家族から子どもを守るために、Aさんはどうしたらよいのでしょうか。弁護士のに齊田貴士さん話を聞きました。
法的手段をとることは可能だが、現実的には難しい
ー義母の行為は法的にどのような問題がありますか?
小麦アレルギーの子どもに小麦を使用したクッキーを食べさせた義母の行為は、不法行為(民法709条)にあたる可能性があります。不法行為とは、故意または不注意で人に損害を与えた場合に賠償責任が生じる規定です。
また、事案によっては傷害罪(刑法204条)、傷害致死罪(同205条)、殺人罪(同199条)、過失傷害罪(同209条1項)、過失致死罪(同210条)等の刑事責任に問われる可能性もあります。
ー家族間のトラブルであっても、法的な手段を取ることは現実的に可能でしょうか?
民法709条の不法行為を根拠に損害賠償を求めることも、刑事上の責任を問うことも可能です。
しかし、身内同士の場合、今後の親戚付き合いや夫婦関係への影響が大きく、踏み切りにくいのが実情です。さらに弁護士に依頼する費用や時間もかかるため、実際に裁判まで進むケースは多くありません。
ー法的な手段を取ることが難しい場合、食物アレルギーに理解のない義母からどのように子どもを守ったらいいでしょうか?
まず、食物アレルギーのある食材を食べさせた場合に、子どもがどうなる可能性があるのか、また法的にどういった責任に問われる可能性があるのかを、明確に伝える必要があると思います。
医学的所見が記載された書面や文献、医師が発行した診断書を見せながらの説明も効果的です。身内が口頭だけで説明するよりも事の重大さが伝わり、アレルギーに対する理解を得られやすくなるでしょう。
そもそも義母は誰にも頼まれていないのですから、Aさんの子どものアレルギーを克服させる必要性はありません。これらを伝えても理解を得られない場合には、子どもを預けないことも検討せざるを得ません。
ただ、対策を講じても夫婦で意見が食い違っていると、またトラブルに発展するおそれがあります。夫婦間でしっかり話し合い、子どもの安全を守るためにどうするべきか、意見を一致させておくことが大切です。もし夫婦間で意見の一致が難しい場合、相談に乗ってくれる自治体の窓口や弁護士などの専門家など、第三者を入れて協議することをおすすめします。
子どもは自分で自分の身を守ることはできません。子どもを守ってあげられるのは親だけなので、いつでも子どもの安全ファーストで行動するようにしましょう。
◆齊田貴士(さいだ・たかし) 弁護士/ベリーベスト法律事務所
神戸大学法科大学院卒業。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。