夫が自宅で亡くなり、長年住み慣れた家が「事故物件」になってしまった。深い悲しみの中で警察対応や遺品の整理に追われる奥さんの心労は計り知れない。しかも、家を処分しようにも、一般に「事故物件は買い手がつかない」「大幅に買い叩かれる」といわれる。
だが、事故物件でも、適切な手順を踏めば納得のいく形で次世代へ引き継ぐ道が拓けるという。神戸市で事故物件に特化した不動産再生サービス「ふっかつ不動産」を運営する株式会社EIZINの代表取締役・仁木英寛氏に、自死現場となった神戸市の一戸建てが成約に至るまでの道のりを聞いた。
夫が自死した家をどうすればいいのか途方に暮れる奥さん
神戸市兵庫区にある一戸建ての家で、50代後半の夫婦が2人の静かな暮らしを営んでいた。そんなある日、夫が練炭で自ら命を絶った。
警察による検証が済んだ頃、仁木氏のもとへ妻のAさんから相談が寄せられた。夫が亡くなってから、まだ2週間も経っていなかった。
「ご相談の内容は、遺品をどう扱えばいいのか、この家をこれからどうすればいいのか分からないとのことで、深く困惑されていました。旦那さんとの予期せぬ別れに加え、警察への対応、親族への連絡、今後の生活の不安などが一度に押し寄せている状態でしたから、単に『悲しい』の一言で片づけられる状況ではありませんでした」
仁木氏が初めてその家を訪れたとき、2階の窓ガラスが割れていた。中で倒れている夫が発見されたとき、突入するために警察が破ったのだという。
「この段階では『家を売りましょう』という話はしませんでした。まずは、Aさんがこれからどこで、どのように生活していきたいのか。家を残したいのか、手放したいのか。そこを一緒に整理することから始めました」
仁木氏は、夫が生前どんな人柄だったのか、この家でどんな暮らしを送っていたのか、夫婦の大切な思い出などを、奥さんに話してもらった。夫が20代前半のとき購入した家には、きっと大切な思い出が刻まれているに違いない。
「私たちが向き合っているのは、単なる事故現場ではありません。人が生きてきた確かな時間です。建物の背景を知らないまま、ただ値段をつけるような対応はしたくありませんでした」
過剰な改装を避け「必要にして十分」な修繕にとどめる
仁木氏は物件の状態を確認し、住宅ローンの残債やAさんの今後の生活設計を丁寧にヒアリングした後、Aさんが実家へ身を寄せる方針が決まってから、具体的な作業へと進んだ。
「ご遺体の発見が比較的早かったため、臭気や体液の汚染に対する特殊清掃までは必要ありませんでした。そこで、家全体を解体して作り直すような大規模リフォームではなく、状態に応じた必要最小限の修繕を施すことにしました」
具体的には、室内の美装に加え、夫が亡くなった部屋のクロスやフローリングの部分張り替え、破損していた建具の新調、窓ガラスの交換など、工事は比較的小さい規模で済んだ。
「事故物件だからといって、何でもかんでも新品に取り替えれば良いわけではありません。過度な工事は売主様の経済的な負担を重くするだけです。次に住む方が物件を見て、安心して暮らせる状態まで的確に整えることが肝要になります」
すぐには売りに出さず奥さんの気持ちが整理できるまで待つ
室内の修繕が終わった後も、仁木氏はすぐに物件を市場へ売り出すことはしなかった。Aさんが実家での生活を落ち着かせ、自らの意思で前を向けるようになるまで、しばらく時間を置いたのだ。
数カ月後、仁木氏のもとへAさんから「気持ちの整理がつきました」と連絡が入った。
「相談を受けた当初は『家を放置したくない』という焦燥感が強かったはずですが、手放す決心をするには時間が必要です。ご自身で納得して決断されるのを待つことが、何より大切でした」
Aさんには、周辺の不動産相場や事故による影響を丁寧に説明した上で販売活動を開始。最終的には、仁木氏の顧客が事情を全て承知して購入を決めた。住人が亡くなった経緯を、包み隠さず透明性を持って説明したことが信頼につながったのだ。
一般的に「事故物件=売れない」という意識が根強い。しかし仁木氏は、その見方に疑問を投げかける。
「『事故物件』という言葉だけで、物件の価値を決めつけるべきではありません。事案の内容や発見までの時間、立地や建物のコンディションは物件ごとに千差万別です。不安要素をひとつずつ解消し、適切な告知を行えば、相応の価格で再び市場に戻す道は必ず見つかります」
仁木氏は最後に、予期せぬ出来事で自宅が事故物件となり、途方に暮れている所有者や遺族へ向けて次のように語った。
「事故のすぐ後に、売却まで決断する必要はありません。まずは『何が起きたのか』『今何をすべきか』『今後どう暮らしたいのか』を整理することから始めてください。何も決まっていない段階でも、専門家を頼ってください」
事故物件でも、適切な手順を踏むことで次の買い手へつなぐことができる。新たな一歩を踏み出す可能性を広げるためにも、1人で抱え込まず専門家へ相談することから始めてみよう。
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ふっかつ不動産