東京都内で長男と2人暮らしをしている、79歳の佐藤洋子さん(仮名)。50歳の長男は20代半ばからひきこもりを続けており、現在、佐藤さんは年金と貯蓄で長男の生活を支えています。
ここ数年、年齢とともに自身の体力低下を感じ始め、自宅リビングで転倒して負傷したことをきっかけに、「私が要介護になったら、この子はどうなるのだろう」と不安を抱くようになりました。しかし、どこに相談すればよいかわからず、「家族の問題だから、自分たちで何とかしなければ」と長年、悩みを抱え込んでいました。
高齢の親と中高年のひきこもりが、生活に不安を抱える「8050問題」は決して特別なケースではありません。将来の生活を安定させるには、早い段階で適切な相談先につながることが重要です。地域包括支援センターを入り口に、親子それぞれの支援へとつながった事例を見てみましょう。
8050問題は親の介護をきっかけに表面化しやすい
8050問題とは、高齢の親と中高年のひきこもりの子どもが、生活や経済面で依存しあうなかで生じる課題を指します。長く就労から離れていた子どもは安定した収入を得ることが難しく、親が要介護状態になると生活の維持が難しくなるケースが少なくありません。
そして、親と子どもの困りごとが複雑に絡み合っているケースが多いため、どちらか一方だけを支援しても根本的な解決になりづらいとされています。
そのため、将来の不安を取り除くには、早い段階で将来を見据えた相談や準備を進めることが大切です。
家族全体を支えるために始まった「段階的な支援」
洋子さんは悩んだ末、地域包括支援センターに相談したところ、社会福祉士が親子の状況をていねいに聞き取ってくれました。その結果、家族全体を支える支援が必要だとアドバイスをもらい、支援につながることができました。
▽母親への支援
洋子さんは地域包括支援センターの支援を受け、要介護・要支援認定の申請を行いました。申請後、自治体の認定調査員が自宅を訪問し、洋子さんの心身の状態や、日常生活での困りごとを確認しました。その後、認定結果に基づいて担当のケアマネジャーが決まり、必要な介護サービスを盛り込んだケアプランを作成してもらいました。
こうして、訪問介護や福祉用具のレンタルの利用が始まりました。家事や日常生活の負担が軽減されると、体調の不安も和らぎます。また、困ったときに相談できる支援者とのつながりができたため、将来への安心感も生まれました。
▽長男への支援
長男は社会福祉士の紹介で、自立相談支援機関につながりました。最初は「今さら何も変わらない」と消極的でしたが、相談員が長男の話をじっくり聞き、責めることなく一緒に考える姿勢を示したことで、少しずつ心を開くようになりました。
将来的に長男が一人で生活しなければならなくなることを見据えて、家計改善支援を受けながら生活状況を整理し、就労準備支援事業(働く準備を段階的に整えるプログラム)の利用も始めました。いきなり就職を目指すのではなく、外出や相談の機会を増やしながら、社会との接点を取り戻していきました。
自立を焦らず、本人の意思や状況を尊重し、無理のないペースで社会とのつながりを取り戻すのが重要です。
どこに相談すればいい?利用できる相談窓口
◆地域包括支援センター(高齢者とその家族の総合相談窓口)
地域包括支援センターは高齢者本人だけでなく、家族の悩みも相談できる身近な窓口です。介護保険の申請手続きや、必要に応じて自立相談支援機関などの専門機関への橋渡しをしてくれます。
市区町村が設置しており、お住まいの地域を担当するセンターに電話や訪問で相談できます。厚生労働省のウェブサイトや、市区町村の窓口で連絡先を確認できます。
◆自立相談支援機関(生活困窮者への支援窓口)
自立相談支援機関は、生活に困りごとを抱える人の相談窓口です。家計改善支援、就労準備支援、住居確保給付金など、状況に応じた支援を受けられます。
市区町村の福祉担当窓口や、社会福祉協議会に設置されていることが多く、相談は無料です。
◆ひきこもり地域支援センター(ひきこもり専門の相談窓口)
各都道府県・指定都市に設置されている、ひきこもり状態にある本人や家族のための専門相談窓口です。電話相談や訪問支援、家族向けの交流会なども行っています。
8050問題は早めの相談が解決への第一歩
洋子さんは現在、訪問介護を利用しながら、以前よりも安心して生活できるようになりました。長男はまだ就職には至っていませんが、相談員との面談を続け、少しずつ外出の機会が増えてきました。「一人で抱え込まずに相談してよかった」と、洋子さんは話します。
8050問題は家族だけで抱え込むほど、深刻化しやすい課題です。しかし、適切な支援につながれば、解決への道筋が見えてきます。地域包括支援センターは高齢者本人だけでなく、家族の悩みも相談できる身近な窓口です。必要に応じて自立相談支援機関や介護サービスなどの専門機関につないで、問題を解決する手助けをしてくれます。
一方で、問題が大きくなってからでは選択肢が限られる傾向があるため、不安を感じたら早めに相談してください。
8050問題は「親亡き後」だけでなく、親が要介護状態になったときに深刻化します。家族だけで問題を抱え込まず、早めに地域包括支援センターなどの相談窓口につながってください。親子それぞれに合った支援を早めに受けると、安心して暮らせる環境を整えられます。
【出典】
内閣府「孤独・孤立の実態把握に関する全国調査(令和5年人々のつながりに関する基礎調査)⼈々のつながりに関する基礎調査−令和3年、4年、5年−調査結果に関する有識者による考察」
https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/zenkokuchousa/r5/pdf/kosatsu_r5.pdf
厚生労働省「ひきこもり支援に関する取組」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/hikikomori/index.html
厚生労働省「ひきこもり支援について」
https://www.cao.go.jp/kodoku_koritsu/torikumi/suishinkaigi/renrakuchousei/dai6/pdf/siryou2.pdf
厚生労働省「地域包括ケアシステム」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/chiiki-houkatsu/index.html
厚生労働省「生活困窮者自立支援制度」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000059425.html
厚生労働省「介護保険制度の概要」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/kaigo_koureisha/gaiyo/index.html
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。