食品メーカーで営業として働く20代のAさんは、長時間労働と上司からの厳しい叱責に耐えかね、退職を決意しました。しかし直属の上司は感情的になりやすく、「辞めたい」と言ったら怒鳴り散らされる可能性があります。そこでAさんは退職代行サービスを利用することにしました。
代行業者から会社へ退職の連絡が入った直後、自宅で待機していたAさんのスマホに上司から着信がありました。無視すると、その後も数分おきに着信音が鳴り響きます。
それからしばらく経って、恐る恐るスマホを確認すると、上司から「退職代行なんて非常識だ」「こんな辞め方をするなら懲戒解雇にするぞ」と脅しのようなメールが何通も入っていました。
この状況にAさんは「懲戒解雇になったら転職に影響するのでは?」「退職代行を使うべきじゃなかったのかも・・・」と不安に襲われます。
では実際に、退職代行を使っただけで懲戒解雇は成立するのでしょうか。弁護士法人・響の弁護士である古藤由佳さんに話を聞きました。
退職代行を利用しただけで懲戒解雇になることはない
ー退職代行の利用を理由に従業員を懲戒解雇とすることは法的に認められますか?
退職の意思表示の方法に法律上制限はないので、退職代行を利用した退職の意思表示は有効です。したがって、退職代行を利用したことを理由に従業員を処分することはできず、当然のことながら、懲戒解雇にすることはできません。
ー懲戒解雇になるような重大な問題にはどのようなものがあるか、具体的に教えてください。
解雇は、労働者の経済的基盤を失わせる重大なことです。そのため客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効になります(労働契約法第16条)。
まず、懲戒解雇について合理的な理由の有無を判断する際には、①労働者の労働能力の欠如の程度、②労働者の規律違反行為の有無、③経営上の必要性などが考慮されます。したがって、犯罪行為を行った場合や重大な経歴の詐称が発覚した場合、1カ月以上の無断欠勤、悪質性の高いセクハラやパワハラなどの問題行動があれば、解雇に合理的な理由があると判断される可能性が出てきます。そのうえで、さらに処分の社会的相当性が求められるため、解雇以外の処分では対応できないのかなどが考慮され、初めて懲戒解雇が認められることになります。
たとえば、軽度のパワハラやセクハラ、1日程度の無断欠勤であれば、口頭での注意や始末書の提出などで済むので、これが理由で懲戒解雇ということにはなりません。しかし、ひとつひとつは軽微な問題であっても、本人が改善せずに何度も繰り返す場合には、悪質であると判断され、最終的には懲戒解雇が認められるケースもあります。
ーもし退職代行の利用を理由に懲戒解雇された場合、労働者はどのような対応を取るべきでしょうか?
退職代行の利用を理由に懲戒解雇される可能性は極めて低いため、「懲戒解雇にするぞ」と脅しを受けたからといって、退職を取りやめる必要はありません。
もし本当に懲戒解雇されても、再就職や雇用保険の手続きで問題が生じなければ、特別な対応は不要です。万が一問題が生じた場合には、弁護士に相談して対応してもらいましょう。
また、退職代行サービスは退職の意思をご本人の代わりに伝達することしかできません。有給休暇の消化や退職日、未払いの残業代、ハラスメント行為に対する損害賠償請求など、会社との交渉や請求も行うのであれば、弁護士へご相談ください。
◆古藤由佳(ことう・ゆか) 弁護士(弁護士法人・響)
「難しい法律の世界をやさしく、わかりやすく」をモットーに、借金や交通事故、労働問題・離婚・相続・消費者トラブルなど、民事事件から刑事事件まで幅広く多数手掛ける。FM NACK5『島田秀平と古藤由佳のこんな法律知っ手相』にレギュラー出演するほか、ニュース・情報番組などテレビ・新聞・雑誌等メディア出演も多数。
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