夜の新宿で「相撲の野良試合」に遭遇し、思わず見入っていたら終電を逃してしまった――。まわし姿の男性がロープで作った即席の土俵で通行人と本気の取り組みをしている光景を捉えた投稿がXで話題となり、「終電逃させ屋だ」「これが東京か…」と4.9万件の“いいね”を集めました。
相撲と音楽を掛け合わせた「まわしパーカッション」で路上活動を開始
相撲をとっていたのは、「野生の力士」こと「ごっちゃんこ」さん(@Gocchanko)。相撲歴は16年、3年間大相撲で活躍した経験もあるという、ごっちゃんこさん。大相撲の引退を機に路上パフォーマンス活動を始めたといいますが、最初の頃は現在のような相撲の取り組みではなく、相撲と音楽を掛け合わせた「まわしパーカッション」で路上ライブをしていたのだそうです。
「相撲と音楽を掛け合わせた表現は学生時代からしていて、“相撲ロックバンド”として活動していたんです。それを大相撲引退後に再開し、本腰を入れたという感じです。まわし姿で路上にいると相撲を挑まれることがあって、なんとなくお客さんとじゃれる場面もちらほらありましたが、メインは音楽活動でした」
タイトルは「ケッタマシーン三河國魂」「土俵際」など独創性のあるものばかりですが、どの曲も自身の人生における葛藤を歌っているといいます。
「どうにも都合よく生きられない自分、ままならない自分、順風満帆でなくてもここからまた前を向いて自分らしく生きていくしかない。そんな内容の曲が多いです。即興のフリースタイルラップをすることもありますが、まわしパーカッションを叩いて歌っている時は体力的にも精神的にも相撲を取っている最中のような感じです。ほんとにやり切ると息絶え絶えで汗をかき、自分というものを出し切った感覚になりますね」
海外公演をきっかけに、「路上相撲」活動へ
現在の「路上相撲」というスタイルへとつながった大きな転機は、2019年春に始めた海外公演を目指した取り組みでした。子どもの頃から海外で相撲の活動をしたいという思いがあり、それを実現するために路上海外公演へ向けた活動をスタートさせたといいます。
「そのリターンとしてダンボール看板に表記していた張り手や写真撮影の中に『接待相撲』というものがありました。これが今の路上相撲の原形です。当時はロープで土俵を用意するでもなく、ただいきなり仕切って『はっけよい』となんとなく相撲を楽しんでもらって、ちょっとおちゃらけて僕が負ける、そんな感じでやっていました」
その後、より本格的に相撲を体験してもらう形へと発展。現在ではロープで土俵を設け、礼や所作の説明も含めて「体験型の相撲」として提供しています。
「『相撲を取ったぞ!』という実感を味わってもらえるよう、取り組みの中になるべく実際の相撲っぽい展開が生まれるよう立ち回りながらやっています。実際にはたまに本当に強い挑戦者の方もいらっしゃって、それどころじゃない時もありますが(笑)」
「接待相撲」の頃はエンタメ要素が強かった一方で、現在は1日何十人もの相手と取り組みを行う本格的なスタイルへと変化しています。そうした中で、これまでの相撲経験がより生きていると感じているといいます。
「素人の方が相手といえど大人が本気でぶつかって来てくれるので、その相手を1日何十人も相手にできているというのは、幼少期から長い時間をかけて積み重ねてきたものだからだと感じています。相撲を始めさせてくれた父への感謝も毎度湧きますね。ただ相撲を取るだけじゃなく、楽しんでもらう、やってみてよかったって思ってもらう、そして安全に。そこをやる上で本当に積み重ねの力を感じています」
『路上相撲』が自分の人生そのものに
本格的に「路上相撲」として活動するようになってからは、「路上相撲が自分の人生そのものになりつつありました」と話すごっちゃんこさん。5年間の路上活動の中で、印象的な出来事は数えきれないほどあったといいます。
「観光地でやることが多いので、『旅行で1番思い出になった』とお子さんが言ってくださったり、相撲を見たこともしたこともなかった方が『今度大相撲を見に行ってみたい』と言ってくださったり。海外からの方も『実際に相撲を体験してみてとても興味深く良い交流になった』と言ってくださったり。一度会った人と別の地で再会することもあって、いろんな種類の嬉しさと感動が日々あります」
一方で、ごっちゃんこさんがかつて経験してきた屋内の土俵とは違い、過酷な環境でもある『路上相撲』。相手と自分の安全を守りつつ、その上で十分に相撲そのものを楽しんでもらいたいという思いとのバランスによる大変さもあると明かします。
「挑戦者の体力に合わせてこちらの出力を調整するのがいちばん大事です。強すぎたら怪我をさせてしまうし、弱すぎるとガッカリさせてしまう。安全を守りながらめいっぱい楽しんでもらいたいと常に考えています。中には格闘技経験者など本当に強い人もいて、普通に僕が敵わないこともありますが(笑)」
相撲に興味がなかった人とつながれる『路上活動』へ思い
路上で相撲を取る意味について、ごっちゃんこさんは「路上での活動をはじめた僕が思うのは、普通に生きていたら相撲に関わりようのなかった人とも僕は繋がれるという価値です」と語ります。
「普通に生きてたら相撲に関わりようのなかった人ともつながれるのが、路上の価値だと思っています。あとは、街にまわし一丁の力士がおったらおもろいやないですか(笑)」
今回話題となったのも、そうした偶然の出会いから生まれたもの。目撃した人が写真を撮影し、Xに投稿したことで一気に拡散されました。
「撮っている人の意図はなんとなく伝わるので、好意的であれば全て嬉しいです。僕の機嫌次第ですが(笑)、ポーズを取ったりして積極的に関わることもあります。僕自身もこれだけ公に発信はしているので、たぶんもっと僕が当たり前の存在になれば『またいるな』くらいになって安心してもらえるとも思っていますし、そういう牧歌的で寛容な社会の空気感も僕はありだと思います。日本の街中ももっと僕が見てきたような海外の姿みたいにユニークであっていいとも思います」
今後も路上でのパフォーマンスを続けていくというごっちゃんこさん。「路上」という場所ならではの良さについてこう話します。
「僕の勝手な視点だけでいうと、僕はとにかく、思い立ってすぐやれる!だれでもやれる!そんな路上での表現が大好きなんです」