田畑が広がる京都府南丹市園部町摩気地区。カナダ人のアダミック・アンディさん(65)と、日本人の池側和子さん(52)夫婦は2年前、カナダ・バンクーバーでの都市生活を離れ、同地区の古民家で田舎暮らしを始めた。
新居は昭和のただずまいを色濃く残す古民家。母屋や離れに蔵、農業倉庫も備える。手狭な借家暮らしのカナダから一転、田んぼも畑もあるわが家を手に入れた。カナダ時代はバイク販売などをしていたアンディさんは得意の木工作業に打ち込み、妻の和子さんはヨガを教えている。
古民家は長らく空き家で少々ガタが来ており、アンディさんの手で改装が進む。台所は床をコンクリートからぬくもりを感じる板張りに変え、念願のまきストーブを設置した。古いものを大切にしたいと、廃材をできるだけ使うのがこだわり。和子さんは「夏場は40度近い中でも『コンコン、カンカン』やっている」。アンディさんは「改装に終わりはない」と笑う。
2人の出会いは約30年前、池側さんが語学留学で訪れたバンクーバーでだった。友人関係から発展し、23年前に結婚、現地で生活してきた。
思い入れのある街だが、2010年冬のバンクーバー五輪に向けて開発が加速。家賃が高騰、知らない顔が増えて人間関係が希薄に。物価高も追い打ちをかけた。窮屈な暮らしに区切りを付けて、24年2月に日本に渡った。
家探しは和子さんの故郷に近い山城地域などを回ったが、たまたま今の古民家を見学し、一目で気に入った。南丹市の移住窓口の対応が良く、京都市に車で1時間という利便性が決め手になった。
ただ、外国人のアンディさんにとって、縁もゆかりもない丹波で「地域に受け入れられるか心配だった」と振り返る。しかし、杞憂(きゆう)だった。
同地区は、71年前に旧園部町と合併した摩気村の約3000人から約1300人に半減。人口減少への危機感が強く、新住民を積極的に受け入れてきた。移住者に居心地の良い土壌が生まれている。
近所の小林全弘さん(79)は、アンディさん夫婦と家族ぐるみの付き合いをする。夫婦が購入した空き家の持ち主から全権委任され、家主選定の面接に関わった。希望する5、6家族からアンディさん夫婦を選んだ。「夫婦ともに人なつっこく、行動力がありすぐに溶け込めると思った。地域活動への参加も積極的で、2人が来たことで集落が明るくなった」
小林さんの手ほどきを受けて田植えに挑戦。秋祭りではみこしを担ぎ、クリスマス会にはサンタクロースに扮(ふん)して登場し、交流の輪を広げる。
海外からの移住者が吹き込む新しい風は初めてではない。
先月22日夜にあった地域のウクレレサークルのクリスマス会。アンディさん夫婦は気の置けない仲間と「きよしこの夜」などを演奏。ローストビーフやタコス、おにぎりなどを持ち寄り、にぎやかに過ごした。
談笑する相手に小林康夫さん(71)がいた。海外勤務が長かった康夫さんも十数年前、アメリカ人の妻を連れて故郷の同地区に移住した先達だ。「異なる価値観を持つ人を『変だ』ではなく、『価値がある』としないと未来がない」と、多様性を尊重する姿勢を大切にしている。
アンディさんと和子さんは「導かれるようにして古民家と巡り会った。かけがえのない多くの友人にも出会えた」。古民家をついのすみかとして、第2の人生を力強く歩んでいる。