「お盆の時期、能登に遊びに来るついでに伝統的な祭りに参加してみませんか?」
石川県・志賀町の伝統的な祭事『西海(さいかい)祭り』、8月14日の開催に向けて「担ぎ手」集めが課題となり、他地域からの参加者をXで募集しています。
投稿したのは東京在住のぴんぽいんと(@pinpoint_m)さん。志賀町赤崎地区の町並みに惹かれ古民家を購入、「能登の古民家宿 TOGISO(とぎそう)」として貸し出し、地元の美しい景色や地震からの復興などをSNSで発信しています。
同町内の西海地区(西海風無地区・西海風戸地区)は北前船や遠洋漁業で栄えた歴史があり、長期の漁で祭りの時期に男手が不足するため、『西海祭り』では女性が「キリコ灯ろう」を担ぐという伝統が生まれたのだそうです。近年は技能実習生も参加するようになっていました。
しかし、令和6年能登半島地震の影響でキリコ灯ろうの担ぎ手と、お祭りの運営費が不足している状況です。
ぴんぽいんとさんの投稿を通じて、お祭りの由来や苦しい状況を知った人々からは、「担ぎたい」「これは良いアイデアだと思うな」「能登に地縁・血縁ない人でも、キリコ担ぎたい人は大勢いますよ~ むしろ、待ってました!って思われるでしょう」などの賛同が多く寄せられました。
お祭りといえば地元の人によるものという印象を抱く人も多いかもしれませんが、実際はどうなのでしょうか。西海風無地区の風無壮年会会長、西崎洋英さん(以下、西崎さん)と、投稿主のぴんぽいんとさんにたずねました。
「理解を得るのが大変だったことも…」
25年ほど前から、担ぎ手が不足し始めて、人づてに周辺でも声がけしていた『西海祭り』。
「海外出身の方にも10年ほど前から参加していただくように。当時を知る地区の区長に確認したところ、金沢大学、星陵大学の留学生が友人、知人伝手で文化交流の体験で担いだのが初めてだったとのことです。ただ、その都度、申し込みの経路は異なり、技能実習生はいつからといったことははっきり分かりません」と、西崎さん。
地元以外の人が参加する際、お盆で帰省する人も多く、宿泊施設や営業している商業施設も限られる時期とあって、受け入れには苦労も…。
「地域住民に参加者の泊まるところ、食事、トイレ、お風呂のお世話の協力をしてくれるよう、理解を得るのが大変でした。しかし、区民みんなが理解し、協力してくれるようになりました」
コロナの感染が広がった時は全国的にお祭りを含むイベントが中止となり、『西海祭り』も2020年~2022年までの3年間は中止、2023年には開催されたものの、翌2024年は地震で運用道路が損傷、帰省時の家が損壊したため、神事のみでキリコ灯ろうの巡行は行われず。
今まで祭りに参加していた県内の学生のボランティア団体も解散し、地域外から担ぎ手を集めづらくなったことから、西崎さんらはぴんぽいんとさんに相談しました。
独自に募集した理由とは? 祭りへの思い
なんとか担ぎ手を見つけたいという思いを抱いたぴんぽいんとさん。能登の伝統的な生垣「間垣」を作るために、志賀町を訪れていたなか、祭りへの思いなどを聞きました。
ぴんぽいんとさんが祭りに強い思いを抱くようになったのは約20年前。バックパッカーとして世界を旅していた頃、エルサレムの安宿で出会った泉州(大阪南部)出身の男性から聞いた話がきっかけでした。 彼の地元では、少子高齢化の影響で「だんじり祭り」の担い手が年々減少し、誇りだっただんじり(山車)を手放すことになったのだそう。その結果、祭りの時期になっても人が戻ってこない状況に。
そこで、地元の有志たちが立ち上がり、 「もう一度、祭りをやろう」と声をかけ、中古のだんじりを買い戻します。すると、祭りの準備で、電気屋にはちょうちんなど電飾の注文が入り、美容室は晴れの日に向けたセットでにぎわい、刺繍屋には衣装の依頼が舞い込むように。 さらには、だんじりの車輪(コマ)に使うベアリング工場までが活気づき、若者達も地元へと戻ってくるようになったのでした。
ただの「お祭り」ではなく、地域の人と仕事を呼び戻す力がある…異国の地で聞いたことが、ぴんぽいんとさんの祭り観を大きく変えたのでした。
後に男性は工事会社を経営するようになっており、昨年は被災した「能登の古民家宿 TOGISO」再建のために大阪から職人を伴い駆けつけてくれました。
そして、震災後に祭りの復活に向けて西海地区の人々が励む様子を見て、「東京と能登の多拠点生活をしている自分だからこそできることがないか」と考えたぴんぽいんとさん。北前船や遠洋漁業で栄え異文化に対して寛容な港町であるという地域の特色を生かして、今回SNSなどを利用し、全国で参加者を募ることに。
「地域の中だけで完結するのではなく、外からの応援・共感も得ながら、祭りが持つ本来の力を次の世代へつないでいけたらと思っています」
今回、間垣を作る技術を継承するために石川県工業高等専門学校の学生らによるボランティア団体「風媒会」が作業に加わり、会の代表で『西海祭り』にスタッフとして参加する島﨑さん(金沢市在住)は、「『西海祭り』は初めてです。久しぶりに再開されるお祭りに参加するのは素敵だと思っています。盛り上げながら、自分も楽しんで、祭りの良さを感じたいです」と、開催を待ち望んでいました。
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現在、石川県も「祭りお助け隊」という形でお祭りに参加するボランティアを募っていますが、『西海祭り』では女性の担ぎ手としてまとまった人数が必要なことから、応募が男性に偏る可能性もあるため、独自に「女キリコの担ぎ手」となる高校生以上の女性10~20名募集しています(7月10日締め切り)。
「能登の古民家宿 TOGISO」周辺の空き家のうち3軒ほどを参加者の宿泊場所とし、衣装レンタル代、着付け費用、食事(夕食のお弁当)、祭り会場と宿泊場所との間の送迎と、宿泊費を合わせて参加費2万円(車中泊の場合は1万5000円)。必要経費以外はすべて祭りへの運営費として寄付される予定です。
今年の開催に向けて西崎さんは、「過疎化が進む中、コロナ禍から震災があり、地元の人や能登の人に元気や勇気を送れる祭礼を目指していきたいです」と意気込みを語ってくれました。
■ぴんぽいんと(@pinpoint_m)さんのXアカウント https://x.com/pinpoint_m
■note「TOGISO -能登の古民家宿-」より「女キリコ担ぎ手募集」https://note.com/togiso/n/n889919a93cee
■能登の古民家宿 TOGISOのInstagramアカウント https://www.instagram.com/noto_togiso/
■風媒会Instagramアカウント https://www.instagram.com/fubaikai_noto/
■志賀町ホームページ「西海祭り」https://www.town.shika.lg.jp/kankou/photo/festival_event/saikai_fest.html