会社員のAさんは、朝9時から夕方5時までほぼパソコンの前に座りっぱなしの毎日です。仕事から帰ったあとも、ソファに長時間座りテレビを見る日々を過ごしています。
それが影響してか、「最近肩こりがひどいな」「足がよくむくむな」と思っていますが、湿布や軽いマッサージで様子を見ていました。
そんなある日、オーストラリアでの研究で、25歳以上の人がテレビを1時間視聴する(座り続ける)ごとに寿命が22分縮むという推計結果が報告されており、肥満や喫煙と同じぐらいの危険リスクだとされていることをAさんはネットで知ります。これによって「このままではまずいのではないか」とAさんは頭を悩ませるのでした。
実際に、ただ座っているだけで本当に寿命を縮めるほど悪影響が出るのでしょうか。また、仕事の都合でどうしても座らざるを得ないAさんのような人への対策はないのでしょうか。医療法人社団筑三会理事長で消化器外科専門医の鈴木隆二さんに話を聞きました。
肥満、糖尿病、心血管疾患などのリスクが上がる
─長時間座りつづける生活は、身体に悪影響を及ぼすというのは本当なのでしょうか
はい、長時間座り続けることが健康に悪影響を与えると多くの研究で示されており、WHOや厚生労働省もその危険性を訴えています。
座っている姿勢は、実は「安静」とは少し違います。立って歩いているときには、ふくらはぎや太ももの筋肉がポンプのように働き、血液やリンパの流れを助けています。しかし、長時間座るとこの筋肉ポンプがほとんど働かなくなり、血流が滞りやすくなります。
その結果、代謝が低下する、血糖や脂質の処理が悪くなる、血栓ができやすくなるといった変化が起こります。さらに座り続ける生活は、身体活動量そのものを減らすため、結果として肥満、糖尿病、心血管疾患などのリスクが上がると考えられています。
―座りっぱなしを続けるとどのようなリスクがあるのでしょうか
比較的多くの人が感じるのは、肩こり、腰痛、足のむくみなどです。長時間同じ姿勢を続けると筋肉が緊張し続けるため、血流が悪くなり、痛みやだるさの原因になります。
医学的に問題になるのは、深部静脈血栓症(エコノミークラス症候群)、糖尿病・脂質異常症などの代謝疾患、心筋梗塞・脳卒中などの心血管疾患、肥満などの疾患です。
また最近の研究では、運動習慣がある人でも「座っている時間が長い」こと自体が独立した健康リスクになる可能性が指摘されています。つまり「運動しているから大丈夫」というよりも、長く座り続けない生活を作ることが重要です。
―仕事柄、どうしても長時間座らないといけない人もいます。座ったままでもできる対策はありますか?
はい、座ったままでもできる対策はいくつかあります。例えば足首を上下に動かす、太ももの筋肉に力を入れて数秒キープする、背筋を伸ばして姿勢をリセットするなどの行動です。特にふくらはぎを動かす運動は、血流を改善するうえで非常に効果的です。
また可能であれば昇降式デスクを使う、会議を立ったまま行う、電話中は立つといった工夫もおすすめです。「座る時間を完全になくす」のは難しくても、同じ姿勢を続けないことが健康を守る大きなポイントになります。
◆鈴木隆二(すずき・りゅうじ) 医療法人社団筑三会理事長 消化器外科専門医(筑波胃腸病院/千葉柏駅前胃と大腸肛門の内視鏡日帰り手術クリニック・健診プラザ)
医療法人大壮会久喜すずのき病院CIO、医療法人社団ユーアイエメリー会(すずのきメンタルケアクリニック、浦和/大宮/草加/新座すずのきクリニック)CIO。聖マリアンナ医科大学卒業。東京女子医科大学消化器病センター助教を経て、現理事長に就任。消化器専門病院で「胃腸の人生を、診る」をモットーに、患者中心の医療を健康診断、内視鏡、手術、緩和とを軸として展開する。