動物には、人の心や家族との関係性を修復する不思議な力があるように思う。猫と生き直しさん(@Sl9rJ)は精神的に苦しかった時期に猫のミルミルちゃんと出会い、「この子と生き直しをしたい」と思うように。
好奇心旺盛なミルミルちゃんは殺伐としていた家族仲に変化をもたらしてもくれた。
暴力や罵倒、勉強のノルマが当たり前な日常の家庭に生まれて
飼い主さんは、暴力や罵倒が日常的に行われる家庭で育った。私語や娯楽は一切禁止。親からは勉強とピアノ練習のノルマを課せられ、放課後に友人と遊んだ経験は一度もない。
「人の輪に入れないので、人付き合いが上手くなるはずもなく、常に孤立するか、いじめられていました」
高校の時、心が限界を迎え、学校へ行けなくなった。しかし、母親はそんな状況でも暴力を振るったという。
「それでも生きていたのは、自死するほどの気力がなかったからです」
なんとか高校を卒業した後は、大学へ進学。逃げるように家を出た。学費や生活費は自分で稼がねばならなかったため、過労で倒れることも。疲労感があるのに眠れず、心療内科を受診。うつ病など、複数の精神障害であると診断された。
自宅の物置小屋で“未熟児の子猫”を発見
大学卒業後はどの職場に勤めても、人間関係の悩みが付きまとった。結婚後は、2回の死産を経験。また、同居する義母の認知症が進み、義父は癌との共存を決めるなど、命に関わる重大な局面が多く訪れたことで、家族の仲はギクシャクしていった。
このままでは家庭が壊れてしまう。そんな不安を抱きつつ、月に2回のカウンセリングを受け、睡眠薬や抗うつ薬を服用して日常を生き抜く日々…。ミルミルちゃんと出会ったのは、そんな時期だった。
2025年9月26日、夕食後に夫とテレビを見ていた飼い主さんは子猫の鳴き声に気づく。そこで、外に出て、スマホのライトで周囲を照らしたが、姿は確認できなかった。
しかし、物置小屋の近くから、大きな鳴き声が…。この日は夜から雨の予報。見捨てることなどできないと思い、地面に這いながら必死に命を探した。
子猫は、物置小屋の奥に隠れていたよう。窓を掃除する道具で隙間を掻き出すと、ようやく姿が見えた。
「巻きつけられてはいなかったもの、太い針金のようなものと一緒にネズミと見紛うほど小さく、へその緒がついたままの猫が出てきました」
「生き延びるのが難しい」と言われても命を諦めなかった
子猫は、手の上で温めると落ち着いていった。翌日、動物病院へ行くと、獣医師は表情を曇らせ、「とにかくミルクを飲ませるしかできることはないが、この子は飲む力がとても弱い。生き延びるのは難しい」と言った。
「本当に飲む力が弱く、ほんの少しずつしかミルクが飲めませんでした。私が寝ている間に死んでしまったらどうしようと思うと、睡眠薬が飲めませんでした」
家族は子猫を気にかけるものの、弱々しい命に触ることを怖く思ったよう。突然現れた存在に困惑もしている様子だったという。
一方、飼い主さんはなんとか命を紡ごうと、哺乳瓶の先をカッターで切って広げ、数時間置きの授乳を繰り返した。
「見捨てる選択肢はありませんでしたが、正直に言うと、最初は“責任”を拾ってしまったと思いました。病気の義両親、忙しく働く夫、自身の疾患への悩みを抱えながら、この子が天寿を全うするまで面倒を見るという責任を背負ってしまった…と」
里親を探したほうがいいのではないか。当初はそう思いもしたが、初めてミルクを10ml飲み干すなどの成長を見る中で、心境は変化。
先の心配より、今日一日、この子が幸せに過ごせ、明日もまた幸せであるように、毎日の積み重ねを大切にしようと思うようになったのだ。
来るべき時に来てくれた猫だった
子猫に贈った名前は、「ミルミル」。当初は男の子と言われていたが、ワクチン接種のため、久しぶりに動物病院へ行くと、女の子であったことが分かった。
「目が開いてからは、自ら人間に近づいていくようになりました。人が近くにいないと寂しみたい。最近は走り回るようになりましたが、物を壊すなどのイタズラはしません」
ミルミルちゃんは、接する相手によって甘え方を変える知的な子だ。一緒に寝るのは、義母、リビングにいる時に腕枕をしてもらうのは義父。返事をするのは、パパさんに名前を呼ばれた時だけだ。
「私にいつもついてくるものの、なぜか愛情表現が少なかったので寂しく思っていましたが、最近は添い寝をしてくれるようになりました。ただ、誰も見ていない時限定。もっとベタベタに甘えてくれてもいいのに…と思っています(笑)」
ミルミルちゃんと関わる中で、飼い主さんは、“まだ頑張れる自分”がいることを知れ、仕事も今まで以上に努力しようと前向きに日常を捉えられるようになった。
また、ミルミルちゃんとの関わりによって家族の心にも変化が。特に認知症の義母は、目に見えて明るくなったそうだ。
「この子が来たことで、家族の笑顔が格段に増え、会話も増えました。どんなに疲れて帰ってきても、温かくてふわふわなこのかわいい子がいると、疲れを忘れます」
この子と一緒に、もう一度人生を頑張ろう。そう決意した飼い主さんの日常やミルミルちゃんの成長を、温かく見守っていきたい。