「いつ来てもいいし、いつ帰ってもいい。だれが来てもOK。たくさん働いてもいいし、おしゃべりだけでもいい」
京都府久御山町栄。街中の空き店舗を利用した仕事場「ACWA BASE(アクワベース)」には、そんな言葉が張り出されている。洗濯工場から運ばれてきた洗い立てのシャツやズボン、肌着、靴下など10~15点を、50~80代の住民11人がたたみ、袋に詰めていく。
難病の夫が施設で暮らす豊島佐智子さん(82)は週3日、午後に働く。「家だと一人きり。考え事ばかりしてしまう。でも、ここにはみんながいて楽しい」
隣で洗濯物をたたむ山田順子さん(60)は豊島さんを「サッちゃん」と呼び、慕う。「たたみ方がすごくきれい。人の悪口を一つも言わないし、前向き。会うと元気になる」。二人は近くの集合住宅に住むが、それまで互いを知らなかった。
アクワベースは、病院や高齢者施設の衣類を洗濯する企業「アグティ」(本社・久御山町森)が2022年に開設した。働き手として近くの住民約80人が登録し、1袋分をたたむごとに歩合給50円を得る。大半が女性で、平日の午前と午後に分かれ、工場で洗濯された衣類をたたむ。あだ名で呼び合い、「今日は、はよ帰らなあかんのやろ。続きはやっとくわ」「アイロンお先に(使うよ)」と掛け合う声も明るい。
開設のきっかけは、齊藤徹社長(48)の社員への思いからだった。先代社長の叔父から「会社は働く人のためにある」という言葉をよく聞いていた。社員が会社にいるのは1日8時間で、残り時間の大半は自宅のある地域で暮らす。「地域を良くすることも社員の幸せにつながるのでは」と思うようになった。
周りを見渡すと、子育てのためフルタイムで働けない人や、親の介護を理由に離職を希望する社員がいた。「定時で会社に通うのが難しいなら、仕事を切り出し、働く人の生活圏に持っていけば」。洗濯物を工場から地域に運び、たたんでもらう、新しい働き方のかたちを思いついた。
近隣にビラを配って迎えたアクワベースのオープン初日、来た住民はたった2人だった。だが、口コミで日に日に増え、3カ月で満員に。齊藤社長は「仕事をきっかけに地域で『つながり』を育てていけたら」と手応えを感じている。
昨年4月には京都市下京区にもアクワベースを開設した。2階に託児所を設け、働く人の半数は子育て中の母親たちだ。認知症カフェで行うなど運営形態に違いはあるが、取り組みは宇治市や城陽市など京都府内8カ所に広がっている。
久御山町のアクワベースには近畿各地から洗濯物が集まるが、今後は、できるだけ町内の洗濯物を扱っていきたいと、齊藤社長は考えている。
「久御山の人と地元の高齢者施設が、洗濯物を通じて、地域にどんな人がいて、どんな施設なのかと互いに関心を持つ。関係性が生まれ、お金も地域で回る。そんな循環を生み出していきたい」