その一言、番組よりも音量が大きい問題
リビングでくつろぐはずの時間が、たまたまついていたテレビをきっかけに、「公開ダメ出し大会」に変わることはありませんか。画面の中のタレントや歌手に向かって、容赦ない評論が飛び交うのです。本人はただの感想のつもりでも、横で聞いている側の心はじわじわと消耗します。番組の内容よりも、隣の解説の方が強烈すぎて、音量ボタンでは解決できない事態になるのです。
わが家のテレビは常にオーディション会場
千葉県在住のHさん(40代)の夫はテレビを見ながら、ほぼすべての出演者に自称「愛の手」を入れます。ただし愛ではなく毒舌が強めです。「足が太い」「しわが多くて見るに堪えない」「音痴すぎる」「この人はなぜ出ているのか分からない」と、審査員席でもここまで言わないだろうという酷評が続きます。
ある日、音楽番組で若手歌手が熱唱していたときのことです。サビに入った瞬間、「本番前に発声練習しろ!」と腕組みで叱咤が入りました。ボイストレーナーの資格は持っていません。続いてバラエティ番組では「この人、コメントが浅いな」と即時判定です。こちらも番組プロデューサーではありません。
さらに驚いたのは、ニュース番組の街頭インタビューにまで講評が及んだことです。「この受け答えではカットだな」と断言していましたが、しっかり全国放送されていました。
血筋なのか文化なのか、評価は遺伝する
もっと興味深いのは、義実家でも同じ光景が展開されていたことです。正月休みで帰省した際、食卓を囲みながらテレビを見ると、義父が「なんだこの衣装は」、義母が「見飽きたわね」と、二方向からコメントが飛びます。まるで副音声が常時オンの状態です。
本人たちは「みんな思っていることを言っているだけ」と言います。しかし、みんなが思っているかどうかと、口に出してよいかどうかは別問題です。しかも、そのみんなの中にHさんは含まれていません。
辛口解説にうんざりしていたが、同じことをしていた
ある日、リビングで息子がボカロ曲を流していました。音楽番組ではなく、動画配信サイトのライブ映像で、ボカロが出演していました。生身では再現できない高音域まで加工された歌声でした。
何気なく聞いていたHさんは、出だしの数秒で心の中に講評を並べていました。「それはAIなの?」「高音が耳障り」「加工した声が気持ち悪い」。驚くほど毒舌コメントです。息子に「おばさんにはわかんないんじゃない?」と一蹴されました。
夫のテレビ辛口解説に内心うんざりしていたはずのHさんですが、息子に同じことをしていました。対象が違うだけで、やっていることは全く同じです。安全な距離にいると、人は簡単に審査員気取りになります。
リビングでダメ出しをするのは夫だけではありませんでした。気づけばHさんも同じ立場になり、順番に辛口コメントを言って、周りの空気を微妙にしていました。テレビの前というのは不思議な場所で、ただの視聴者を、すぐに酷評する側へ昇格させてしまいます。そう考えると、あの辛口タイムも、家庭内バラエティの一部として眺められる気がしてきます。