善意で引き受けた「花束係」が、なぜか一番気まずい立場に
職場の人間関係には、ときどき説明のつかないモヤモヤが生まれます。特に、お金が絡む場面では、その違和感が急に輪郭を持ち始めることがあります。
Sさん(50代)が戸惑ったのは、仕事仲間のお祝い会での出来事でした。
発端は、「みんなで花束を贈ろう」という自然な流れでした。誰かがやらなければ進まないため、Sさんが代表して花束を手配しました。予算や渡すタイミングまで考え、当日は花束を持って会場へ向かったといいます。
ところが、会場に着いた瞬間、空気がおかしいことに気づきました。
参加者たちが、それぞれ包装されたプレゼントを個別に持参していたのです。
美容家電、高級菓子、ブランドの小物 。テーブルの上には個人で用意したプレゼントが並び、Sさんの花束は「みんなからのプレゼント」というより、追加でもう一つ用意されていたかのような扱いになっていきました。
Sさん自身は「花束を代表して用意する役」だと思っていたため、個別プレゼントは準備していませんでした。
結果として、「あれ、Sさんは花束だけなんだ」という空気がうっすら漂い、なぜか代表して動いた本人だけが気まずい立場になってしまったそうです。
精算の空気が消えたまま、誰も花代に触れない
さらに困ったのは、その後でした。
本来であれば、立て替えた花束代を参加者で割り勘にする流れになるはずでした。しかし会は進み、写真撮影や歓談が続く中、誰も花代の話をしません。
「後でまとめるのかな」と思っていたSさんでしたが、結局そのまま解散。
LINEグループでも感想や写真ばかりが投稿され、肝心の精算については誰一人触れないまま時間だけが過ぎていったといいます。
請求すれば済む話ではあります。しかし、お祝いムードの直後に「花代をお願いします」と送ることへの心理的ハードルは想像以上に高かったそうです。
しかも、周囲はすでに個別プレゼントを購入済みです。
「みんなもお金を使っているのに、さらに花代まで請求するのかと思われそうで言い出せなかった」とSさんは振り返ります。
「PayPayは困るので現金書留で」まさかの要求
違和感は、会費の支払いでも続きました。
今回の幹事だったYさんとは、普段からPayPayで送金し合う関係だったため、Sさんは特に確認せず、いつもの感覚で「PayPayで送りますね」と伝えました。しかし返ってきたのは、予想外のメッセージでした。
「PayPayは困るので、会社宛てに現金書留で送ってください」
最初は冗談かと思ったそうです。
当日、会費を現金で集めるという説明は受けておらず 、事前連絡もありませんでした。Sさんは銀行振込を提案しましたが、「口座情報をLINEに載せたくない」と断られたといいます。
その結果、残された選択肢は現金書留だけでした。
封筒代や郵送手数料まで考えると、「なぜこちらが追加負担をしなければならないのか」という疑問が頭を離れなかったそうです。
ただ、その一方で、自分はまだ花束代を回収できていません。
「ここで強く言ったら、花代の話もしづらくなる」
そう考えるうちに、何も言えなくなっていったといいます。
細かいお金より気になった、人間関係の温度差
後になって振り返ると、Sさんの中に残ったのは金額そのものより、「なぜこんなに話が噛み合わなかったのか」という感覚だったそうです。
共有されていなかったプレゼント事情。突然指定された現金書留での支払い。 そして、誰も触れない立替金。
どれも小さな出来事ですが、積み重なることで「自分だけ扱いが違うのではないか」という不穏な違和感に変わっていきます。
善意で動いた人ほど、その場の空気を乱したくなくて言い出せず、結果として損を抱え込んでしまう。
職場のお祝い会の裏で起きていたのは、そんな静かな疲弊だったのかもしれません。