「定年まであと4年。再雇用されても給与は3割減ると聞いている。妻と二人、年金だけで本当にやっていけるのだろうか」。そんな不安を抱える田中雅彦さん(仮名・56歳)は、大手メーカーで30年以上営業一筋で働いてきました。しかし、最近の役職定年で管理職を外れ、これまでの経験を活かせる場が社内で見つからないと感じているといいます。老後資金の目途も立っておらず、このまま会社にしがみつくべきか、それとも新しい道を探すべきか、判断がつかずにいます。そんな田中さんのように、50代でセカンドキャリアに悩む方は少なくありません。
50代こそ"やり直し"のチャンス
人生100年時代と言われる現代、50代はまだ折り返し地点に過ぎません。日本政策金融公庫総合研究所の調査によれば、2024年の時点で、起業する人全体の20%以上が50代以上であり、その割合は年々増加しています。50代には若い世代にはない「経験」「人脈」「経済知識」「判断力」という強みがあることが理由となっていると考えられます。
また、Indeedの「シニア世代の就業に関する意識調査」(2022年10月)では、50代以降のシニアの約58.3%が「働きたい」「働く必要がある」と回答しています。一方で、9割以上が不安や課題を抱えているのも事実です。だからこそ、早めに具体的な準備を始めることが重要なのです。
セカンドキャリアの5つの選択肢
それでは、50代からのセカンドキャリアにはどのような選択肢があるのでしょうか。ここでは主要な5つの道を、そのメリット・デメリットとともにご紹介します。
▽1. 再就職・転職
これまでの経験を活かして別の企業で働く道。年齢による制約や新しい環境への適応が課題になるケースもありますが、安定した収入が見込めるのは大きなメリットです。
▽2. 資格取得
国家資格や専門資格を取得して専門職として活躍する道。介護福祉士、宅地建物取引士、社会保険労務士などは50代からでも十分に目指せる資格といえます。
▽3. 趣味の深化・仕事化
長年続けてきた趣味を仕事にする道。収益化までに時間がかかる可能性もありますが、やりがいを感じやすく、定年もないので思う存分活躍することができます。
▽4. 地域活動・ボランティア
NPO(特定非営利活動法人)やボランティア団体で活動する道。収入面の工夫は必要になりますが、社会貢献を通じて生きがいを感じることができます。
▽5. 起業・独立
自分でビジネスを立ち上げる道。自分のペースで働け、成功すれば大きな収入も期待できます。
いきなり大きな決断が難しいという人には、まず小さく試すことをおすすめします。短期ボランティアで適性を確認したり、夜間講座やオンライン講座を活用してスキルアップを図ったり、副業からスタートする方法があります。リスクを抑えながら、自分に合ったキャリアを探ることができます。
経済面の現実と支援制度
2024年度のデータによれば、国民年金のみの場合の平均受給額は月額約5万6000円、国民年金と厚生年金の両方に加入していた場合は月額約14万5000円です。
経済的な不安を軽減するために活用したいのが「専門実践教育訓練給付金」です。2024年10月からは給付率が拡充され、受講費用の50%〜70%が給付されます。さらに、特定の条件(訓練修了後の就職など)を満たせば、最大80%まで追加支給されるようになりました。対象講座は2025年4月1日時点で3220講座にのぼり、介護福祉士、看護師、IT関連資格、MBA取得プログラムなど多岐にわたります。
この制度を活用すれば、受講料が100万円の講座でも実質負担は20万円程度に抑えられる可能性があります。詳細はお住まいを管轄するハローワークでご確認ください。
今こそ行動を
田中さんは、専門実践教育訓練給付金の対象講座を調べ、長年の営業経験を活かせる中小企業診断士の資格取得を目指して通信講座を受講し始めました。給付金のおかげで受講料の7割が戻ってくるとわかったのが、後押しになったそうです。週末は地域の商工会議所が主催する創業支援セミナーにも参加し、将来的には独立も視野に入れているといいます。
50代からのセカンドキャリアは、決して「やり直し」ではなく、これまでの経験という資産を活かした「新たな挑戦」です。重要なのは「いつか」ではなく「今」行動を始めることです。まずは自分のスキルと経験の棚卸しから始め、興味のある分野について情報収集し、小さく試してみましょう。人生100年時代、50代はまだまだチャレンジできる年齢です。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症Ⅱ型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。