名古屋市東山動植物園のホッキョクグマ舎。大きなホワイトボードにホッキョクグマ飼育への取り組みがつづられています。1年前に掲げた初回テーマは「なぜウロウロするのか」。理由を考え、うまくいかなくても諦めず、試行錯誤する胸の内をストレートに書いています。生態説明でも個体紹介でもない内容をここまで明らかにする訳は? 担当の片岡裕貴(ひろき)さんに聞きました。
フブキは2020年12月26日、秋田県の男鹿水族館GAOで誕生。2023年春に東山動植物園へ来園しました。おもちゃで遊んだりプールに豪快に飛び込んだりする姿が大人気。「ウロウロ」とは、動物園のクマによく見られる常同行動のことで、フブキも例外ではありません。片岡さんはまず、フブキの一日の過ごし方を観察した上で原因をいくつか考え、対応策を練ったそうです。
―動物園ではよくある光景なのでは
「なぜ、どんな気持ちで行ったり来たりしているのか。おもちゃの入れ方を小刻みにしたり、エサのやり方を工夫することで減ったと感じることもありました」
-結果は変わった?
「動きは変わったとは思いますが、『動かして、それを見せること』がメインになっているようにも思います。遊ぶかウロウロするかだけでなく休息する時間を入れたいとも思い、飼育員の立ち位置によって落ち着いて休む時間も出てきたと思います」
-背中を擦って毛が薄くなることもあると。擦るのはクマの習性なのでは?
「どこまでが許容範囲なのか。去年は血がにじむほど擦ってしまって。メンタル面も原因かと考えましたが、今年はそこまでにはならず、だとしたら別の理由なのだろうかと考えています」
ークマはこういうもの、では済まされない?
「ぼくらの仕事はいくらでも言い訳ができると思います。『こうですから』と言えば、『そうなんですね』としか言えないと思いませんか? ウロウロだって、『仕方ないんです』と言ってしまえばここであぐらをかいて見ていられますからね」
―大きなホワイトボードに手書きです
「いまどき珍しいですか? でもパソコンで作るより早いので。フブキのいる部屋の横で、『ここにいるから、ゆっくり休んでね』と思いながら少しずつ書いています」
飼育員歴17年目の片岡さん。フブキ担当は2年です。
「ほかの動物では効いたと感じたことがフブキでは反応が違う。何が正解か、何が違うのか。フブキからの評価は正直分からないので、自分ならこうされたらうれしい、を積み重ねていくしかないと思っています」
フブキの体重は12月15日の計測で399kg。日によっては400kgを超えるように。毎日の決まったエサに加え、不定期で与える牛骨、牛脂などへの反応は良く、一番好きなのはオリーブオイルとのこと。
担当する動物から目をそらさず、常に真っ正面から向き合う片岡さん。
「尊敬する先輩方は、動物の状態を動物のせいにしません。動物を見て、『動物の質が良いね』とか、『動物がまろやかになる』と表現します。評価が難しい部分も見極めて、動物の精神的な部分もより良い状態に導いてあげる必要があると思います」
「ぼくにとってフブキは『壁』です。何をやったかではなく、フブキがどうなったか、です。ぼくが無思考ならフブキも無思考になるでしょう。気持ちを動かして、この限られた空間で、少しでも生活の質を上げてやりたいです」
みなさんなら、ホッキョクグマのフブキに、どんな暮らしを組み立ててあげたいですか。