今から9年前、Xユーザー・むぎさん(@mugi411)の暮らしは、大きな転機を迎えました。難病が判明し、仕事を辞めて自宅で療養する日々に。夫は献身的に支えてくれたものの、ひとりで過ごす時間が増えるにつれ、気持ちは次第に内向きになっていったといいます。
幼いころ、犬や猫に囲まれて過ごした記憶が、ふと心によみがえりました。静かな時間の中で、「もう一度、動物と暮らしたい」という思いが、少しずつ膨らんでいったのです。
「当時も実家に犬や猫がいたので、動物との暮らし方やお世話については理解していました」
そんな折、飼い主さんの母から連絡が入りました。友人宅の近くで、野良猫が子猫を産んだという知らせでした。
夫婦で現地へ向かうと、すでに別の人が子猫を見に来ており、兄弟猫の一部は里親が決まっていたといいます。残っていたのは、生後2カ月ほどの兄弟猫2匹。もうひとりの来訪者は「1匹なら引き取れる」と話しました。
「そうして、私たちが迎えることにしたもう1匹の猫が、むぎでした。抱き上げた瞬間、『この子だ!』と運命を感じたのを覚えています」
2016年4月11日、むぎちゃんは飼い主さん家族の一員になったのです。
子猫を迎えたら…8年目に起こった奇跡
お迎えにあたって、飼い主さんは実家から使っていないケージやキャリーを譲り受け、爪研ぎやトイレ、猫用ベッドなどはその日のうちに買いそろえました。初めての環境に戸惑うかと思いきや、むぎちゃんは意外なほど落ち着いていたといいます。
「うちに来た当初からとてもおとなしくて、動物病院での診察もスムーズでした。少しずつ生活に慣れるにつれて、どんどん活発になっていきましたね。生後6カ月を迎えるころには、とびきりの甘えん坊になって、いつもくっ付いて眠るようになりました」
飼い主さん夫婦に見守られながら、むぎちゃんはすくすくと成長。家具で爪研ぎをすることもなく、いたずらもほとんどしないお利口さんだったといいます。
そして、むぎちゃん中心の生活は、飼い主さん自身にも大きな変化をもたらしました。
「病気の影響で、歩いたりしゃがんだりするのがとてもつらかったんです。でも、むぎのお世話をするために体を動かしているうちに、少しずつ症状が改善していきました。体調だけでなく、気持ちも目に見えて元気になっていったんです。むぎが家に来てくれたおかげだと思っています」
むぎちゃんと暮らし始めて8年経ったころ、飼い主さんは仕事に復帰。療養中、むぎちゃんはいつもそばに寄り添い、甘えることで気持ちを支えてくれたといいます。
「年を重ねるごとに、むぎは落ち着いて穏やかになりました。来客があると自分からあいさつに行くような人懐っこい一面もあります。夫は犬と暮らした経験はありましたが、猫は初めて。それでも今では、猫のいない生活は考えられないほど、すっかり魅了されています」
兄猫になっても穏やかで優しいむぎちゃん
人生の岐路に立たされた時期に出会ったむぎちゃんは、現在9歳になりました。飼い主さん夫婦の愛情を一身に受けながら、その愛らしさは今も変わりません。
その後、家族は増えていきました。夫婦のあいだに2人の娘さんが誕生し、さらに3匹の猫——ふくちゃん、るなちゃん、こまちゃん——を迎えることになったのです。
飼い主さんが心配していたのは、むぎちゃんが新しい家族を受け入れてくれるかどうかでした。しかし、その心配はすぐに杞憂に終わります。
「むぎは、新しく来た家族を自分から見に行って、クンクンとニオイを確認していました。そのあとは、適度な距離を保ちながら静かに見守ってくれて。今では、頼れるお兄ちゃん猫です」
飼い主さんにとって、むぎちゃんは「人生で一番つらかった時期」をともに乗り越えてくれた存在です。その時間があったからこそ、今の暮らしがある——そう感じているといいます。
「あるときから、『むぎは私の言葉をちゃんと理解している』と確信するようになりました。それ以来、毎晩『むぎが世界一だよ』って伝えているんです。感謝してもしきれません」
小さな子猫との出会いが、ひとつの人生を支え、家族をつなぎ、未来へと導いてくれました。むぎちゃんは、今日も変わらず、やさしい眼差しで家族を見守っています。