連続テレビ小説『ばけばけ』(NHK総合)第12週「カイダン、ネガイマス。」が放送され、今週はトキ(髙石あかり)とヘブン(トミー・バストウ)がとうとう怪談にたどり着いた。
第1回の冒頭でも同様のシーンが流れたが、物語の折り返し地点を目前に、蝋燭の前でヘブンに向けて怪談を語るトキの姿が久しぶりにお目見えした。トキの「怪談語り」について、制作統括の橋爪國臣さんに聞いた。
「物語を語りかける気持ちで話してください」
『ばけばけ』の「怪談ばなし指導」は、講談師の玉田玉秀斎さんが行っているが、玉秀斎さんが撮影現場まで来て俳優に指導をすることはないのだという。橋爪さんは、その理由についてこう語る。
「玉秀斎先生には台本の怪談部分をチェックしていただいたり、ドラマで登場する怪談のくだりの前後を書いていただいたりしています。先生の講談を髙石あかりさんに見てもらったのは一度だけ。トキが話すのはあくまでも素人が話す怪談なので、プロの先生による講談は参考程度にとどめてもらって、『練習しないでください』と言いました。『髙石さんが誰かに物語を語りたいと思うのと同じような気持ちで、話してください』とお願いしました」
第57回で、怪談の本を手に取って読み聞かせようとするトキにヘブンが、「ホン、ミル、イケマセン」「シジミサン、ハナシ、カンガエ、コトバ、キキタイ」と言う。これは実際に、モデルである小泉セツさんが怪談の語り聞かせをするにあたって、ラフカディオ・ハーンが望んだことだという。このヘブンの台詞どおり、トキが「自分の言葉」で語ってハーンに聞かせる怪談が胸に迫った。橋爪さんはこう続ける。
怪談はトキとヘブンのコミュニケーション・ツール
「『ばけばけ』の中でトキが語る怪談は、ヘブンとのコミュニケーション・ツールであり、のちのちは『愛の言葉』となっていくもの。ふたりにとって怪談は『会話』であり、キャッチボールなんですね。なので、『怖がらせよう』というのではなく、『相手にわかってもらうために、自分の気持ちが入った怪談』にもっていきたいですねと、髙石さんにお話ししました」
落語家が噺に入るところで羽織を脱ぐように、トキが怪談を話し始める前に蝋燭に火をつけ、話し終えたところで息を吹きかけて火を消すというアクションが面白い。
「セツさんとハーンが実際にああやっていたのかどうかはわかりませんが、『ばけばけ』の中で登場する蝋燭は、トキが“モード”に入るためのアイテムというか。言葉の壁があって、なかなか話が通じない中で、どうしたら怪談の雰囲気を伝えられるか。『ここからここまでが怪談ですよ』ということをわかってもらうための、トキの工夫のひとつとして見せられたら、と考えました」
と橋爪さんは語る。
いろんな種類の蝋燭を試した
また、使う蝋燭にもこだわりがあるという。
「普通の蝋燭って、かなり炎がゆらめくんですね。そうすると画面がチカチカして見にくい。かといって、LEDだとまったくゆらめきが出なくて、人工的すぎてしまう。ちょうどいい塩梅の炎のゆらめきを作るために、いろんな種類の蝋燭を試したり、当てる風の量を試行錯誤したりして、現在のかたちにたどり着きました。トキとヘブン、ふたりだけの集中した空気を盛り上げながら、目にうるさくない炎、というところを狙いました」
怪談でぐっと近づいたトキとヘブンの心。しかし、トキが怪談を語れば語るほど、ヘブンの「日本滞在記」は完成に近づき、ヘブンが松江を去る日が近づいてしまう。2025年最後の放送週となる次週(第13週)「サンポ、シマショウカ。」で、トキとヘブンはどんな答えを見つけるのだろうか。