叡山電鉄・元田中駅(京都市左京区)前の東大路通り沿いが、本場の中国料理が楽しめる「ガチ中華」の店がひしめく激戦区と化している。一帯には中国人向けの物産店や不動産屋も進出し、チャイナタウンのような様相を呈している。ここ数年で変容したという街並みの背景には、「大学のまち」である左京区らしい理由があった。
ぐつぐつと煮立つ麻辣(マーラー)スープから、牛脂で炒めた唐辛子や香辛料の奥深い香りが沸き立つ。中国式鍋料理「火鍋」の専門店「寛舗 重慶火鍋」(高野東開町)。重慶出身の肖珩さんとハルビン出身の姜珊さんの夫婦が2023年から営んでいる。
100種類以上ある具材のメニューには、ラム肉や旬野菜と並んで、カモの手やウシガエルなど日本でなじみのない食材も。記者が注文に迷っていると、「これがないと重慶の火鍋は始まらないよ」と、センマイとカモの腸を勧めてくれた。
駅前の東大路通り沿いには、こうした「ガチ中華」の店が10以上軒を連ねている。日本人好みにアレンジされた「町中華」とは異なり、メニューや味付けは現地流。周辺に京都大や京都芸術大が立地し、「母国の味」を求める中国人留学生の癒やしとなっている。
テナントを紹介したことがある不動産会社「仁通」(南区)によると、5年ほど前から一帯でガチ中華店が急増したという。
背景に、中国人留学生の増加がある。京都市によると、「留学」の在留資格の外国籍住民は24年12月時点で1万9110人と、19年同月比で43・8%増。中国籍が5割弱を占めている。
仁通の劉丞社長によると、中国で受験や就職で競争社会が激化する中、海外留学を選ぶ若者が増えたという。「大学卒業=失業とまで言われる。日本は文化的に近く、治安も教育も良い。円安で欧米に比べ費用は安く、留学先に人気」と語る。
元田中から修学院の間に留学生向けの賃貸が集まっているといい、同社にとっても一帯は「京都のキーポイントの一つ」。昨年から支店も構えた。
輸入品を扱う食料品店の進出も目を引く。18年開業の「京都中華物産高野店」(田中大久保町)には、1200品がずらりと並ぶ。調味料一つでも数十種類をそろえ、オーナーの王思奇さん=ハルビン出身=は「中国は広く、種類や好みもいろいろあります」と話す。紹興酒やラー油を求める日本人学生も客に多いという。
駅周辺の街並みの変化は、大学で留学生の受け入れが増える中、変わりゆく学生街の今を映していた。
四川風刀削麺が売りの「五十碗」(田中里ノ内町)の張琛さん=成都出身=は20年前、自身も京都芸術大に留学していた。本業はグラフィックデザイナーで、留学生の誘いで5年前に元田中で店を構えた。「私が学生の頃は、中国系の料理店や物産店が近くになかった。留学生は住みやすくなったと思います」と話す。
ガチ中華と並び、昔ながらの町中華も健在だった。創業約60年の「友楽菜館」(田中里ノ内町)は、安価で優しい味わいのラーメンやギョーザが学生に長年愛されてきた。2代目の牧野真江さん(56)は「人の流れが随分変わり、通りを朝まで飲み歩く京大生を見なくなった。古い商店は次々閉店していくが、うちも先代の思いがある店。地道に続けたいです」。店前の街路を見つめた。