京都新聞社は9月16日、京都新聞本社ビル(京都市中京区烏丸通夷川下ル)の再開発計画に伴い、同区烏丸通六角下ルの「ONEST京都烏丸スクエア」に新聞編集の拠点を移した。
烏丸丸太町交差点にほど近い旧本社ビルは1967年に現在の南館が、1975年には北館が完成し、京都・滋賀のニュース報道拠点として24時間態勢で稼働してきた。ビル内には社員食堂もあったが、事件事故に迅速対応する宿直記者らは長時間離席できないこともある。そんな多忙な記者たちの胃袋を支えたのが、近隣の店が手作りの温かい食事を届けてくれる「出前」だった。
本社移転に伴い、長年お世話になった丸太町かいわいの「出前メシ」ともしばしの別れとなる。感謝の気持ちを込め、ひいきのお店を取材した。
肉厚カツ丼が人気の料理店
京都新聞ビルから東に約150メートル、中京区竹屋町通間之町東入ルに店を構える「遊旬 きん安」。4代目店主の上田努さん(61)によると、創業は約80年前で元々は魚屋だったという。先代までは仕出し専門店で、上田さんが店を継いだ後、1996年から店内営業を始めた。
出前での人気メニューは、肉厚で柔らかいとんかつが載った「カツ丼」。「豚肉が鉢一面に広がるように。卵も栄養のある良い赤玉にこだわっています」と上田さん。
京都新聞への出前は、上田さんが物心つく前から続いていた。「父からは(ビル内に)食堂ができてからは暇になったと聞きました」。それでも30年ほど前までは連日十数人前の注文があり、元日にも配達していた。ビル内にはかつて京都放送(KBS京都)も入居しており、往年の人気女性アイドル「キャンディーズ」の姿を見たこともあったという。
特に記憶に残っているのは、昭和天皇崩御や東日本大震災といった大きなニュースのとき。配達に訪れた5階編集局のフロアは「共同通信のスピーカーがひっきりなしに鳴り、記者の皆さんがバタバタとしていつもと空気が違いました」。
21世紀に入ると、本社内にあった印刷工場が京都府久御山町に移転するなど、本社ビルで働く人数は減少。周囲に24時間営業のコンビニやファストフードが次々開業し、注文も減った。今も出前を続けるのは、京都新聞や京都地方裁判所、周辺の弁護士事務所など顔なじみの数カ所のみ。「親父をごひいきにしてくれていたところとは縁を切りたくない」との思いで、忙しい店の営業の合間を縫って自ら配達に出る。
現在は店内営業が中心のため新規の出前注文は受け付けていないが、カツ丼など出前と同じメニューはランチ時間に味わうことができる。夜は居酒屋スタイルでの営業となる。
丸太町を去る京都新聞社に対し、上田さんは「御所南を代表する建物だったので、さみしいですね。また戻ってこられた際はよろしくお願いします」と言葉を寄せた。
遊旬 きん安 午前11時~午後2時(同1時半ラストオーダー)、午後5時半~午後10時(同10時ラストオーダー)。日曜と祝日、第2土曜休み。075(231)5211。