大荒比古神社(滋賀県高島市新旭町)の約300メートルの馬場を、雄たけびを上げながら一気に駆け抜ける。たかしま馬祭り伝統文化継承会七川祭り八騎衆代表の中村智久さん(41)は5月4日に営まれた例祭「七川祭」のハイライトの競馬で、流鏑馬(やぶさめ)の後に奉納される役馬の騎乗者を毎年担う。「祭りを後世に伝えたい」との思いから、騎乗者育成を目指す乗馬クラブの代表も務める。
七川祭は、鎌倉時代の武将佐々木高信が出陣の際に同神社で武運を祈り、戦勝時に流鏑馬と的を献納したのが始まりとされる。「湖西随一の馬祭り」として親しまれ、氏子の8地区が祭りの当番「渡し番」を毎年交代して継承している。
祭りに深く関わるようになったのは2012年。渡し番の井ノ口地区で流鏑馬の騎乗者を任された。乗馬経験がなかったため、京都市の乗馬センターで練習を繰り返し、大役を果たす。この時に「地元から騎乗者を増やしたい」と思い始めた。
流鏑馬は渡し番の氏子、役馬は8地区の氏子が騎乗してきたが、乗り手不足解消と運営効率化のため、その数年後から流鏑馬や一部の役馬の騎乗者、馬を外部のプロに依頼した。こうした過渡期の18年、同神社氏子青年会の乗馬クラブ「八騎衆」を発足。8頭の役馬にちなみ命名した。
これまで京都市の乗馬センターや近江八幡市にある在来馬専門の牧場の協力を得て乗馬体験イベントを定期的に開催。自ら元競走馬を購入して自宅に馬房を作り、気軽な体験の場を設けた。「使命感だった」と振り返る。
長く会長を務めた氏子青年会が今春、会員不足でやむなく活動休止になったものの「たかしま馬祭り伝統文化継承会 七川祭り八騎衆」として継続し、騎乗者育成も再スタートだ。「約790年、祭りが続いていること自体がすごいこと。祭りをもっと知ってもらい、地元の誇りにしたい。活動を通し、湖西一帯で盛んだった馬祭りの再興や活性化につながれば」と思いを込める。
本職は農業と楽器店経営の二刀流で、スイカ栽培に追われる。「猛暑の中、ハウスのスイカは心配なく育ち、喜んでいただいている」と旬の味を届ける。