「運動会の写真をSNSに上げるのはやめて欲しいです。その写真の隅っこにいるうちの子を、元夫が見つけたら、どこの学校か知られたら、前触れなく私たちの前に現れたら…。
そう考えるとゾッとします。お願いだから、子ども本人や保護者の同意なく、写真を出すのは控えてください」
運動会で頑張るかわいい我が子や孫の姿をとらえた写真や動画。個人で見る分には問題ありませんが、安易にSNSで公開する人が後を絶たず。むしろ「何がダメなの?」と、そのリスクに気づいていない人も、年配層に多い印象です。
かつてであれば、写真だけで場所の特定は難しかったかもしれません。しかし、今や部屋の写真だけで、マンション名、何階の何号室であるのかまで特定してしまう人も。どこの幼稚園か突き止めるのは、案外簡単です。
不特定多数の人の目にふれるSNSの写真投稿について注意を促すのは、夫の暴力から子どもと逃げることができた母A子さんと、保育士のかこさん(@kako_kosodate)。
無防備なSNS投稿の危険性について、「親子の穏やかな生活を守るために」と、取材に応じてくれました。
「昼逃げ成功」で終わりではない母子の暮らし
数年前、夫の家庭内暴力(ドメスティックバイオレンス 以下DV)から逃れるため、幼い子どもを連れて昼逃げを決行したA子さん。夫との離婚が成立し、新しい土地での暮らしもようやく軌道に乗ってきました。
しかし、元夫に居場所を突き止められることを防ぐために親しかった友人にさえほとんど連絡を取っていません。SNSへの写真投稿はその生活を無にする危険なものだと言います。
「もし、誰かがSNSに投稿した写真を元夫が見つけて、居場所がバレてしまえば、何をしてくるか…。引っ越しを余儀なくされ、また新しい土地で一から生活を築かなければなりません」
形式上は縁が切れたと見なされますが、常に不安がつきまとう暮らし。「子どもにも新しい友達ができ、親子2人で穏やかな日々を過ごしていますが、居場所を知られることだけはなんとしても避けなければいけません」
そのため、ごく普通の生活を送る人たちには思いもよらないような、日常の些細なことにまで神経を尖らせています。
例えば、SNSや広報誌などに子どもの写真を一切掲載しないことを保育園や学校に依頼し、「運動会での名前の読み上げもうちだけお断りしています」とA子さん。
DVから逃げてきた親子の中には、子どものコンクールの賞を辞退したり、スポーツなどの大会で偽名を名乗ったり、行事などのクラス写真に写ることを避けたり、安全を確保するためにさまざまな策を取っています。
また、性虐待から逃げてきた親子もいる、とA子さんは言います。
「かわいい我が子や孫を皆にも見てほしいという純粋な動機でも、その行動で命の危険に晒される人たちがいるのです」と訴えます。
「SNS投稿は控えて」と事前告知をしても
現役保育士のかこさん(@kako_kosodate)も、保護者や家族によるSNS投稿の危険を指摘。
「行事の後には、必ずお子さんやお孫さんの写真を投稿する方が多くいます。中には園のマークや体操着などから、園名や名前の特定も出来てしまいます。保育士に至ってはモザイクもないことも多いです」
かこさんが勤務する保育園では、運動会などの行事開催前にはおたよりを作成し、保護者に配布。
注意事項として、「写真や動画の撮影は可能ですが、SNSには投稿せずに、ご家庭でお楽しみください」と記載しています。
また、運動会当日の放送(保育士によるアナウンス)でも、注意事項として同じ旨を伝えていますが、毎回、SNSに投稿する保護者が出現。
先日行われた運動会後も、写真の投稿を発見しました。
「なにげなく検索したら、ヒットしました。あれほどお願いしたのに、案外伝わっていないんですよね」。園長に報告し、削除の要請をお願いしたそうです。
このことを踏まえ、かこさんはSNSで以下のようにリスクについて訴えています。
「『これ、本当に載せていいのかな?』 と投稿前に考えて欲しいです。保育園にはさまざまな家庭環境の方が通園されています。夫婦円満で、実家や義実家との関係性も良い、そんな家庭が当たり前ではないのです。
誰かから逃げるようにして生活されている方、保護シェルターで生活されている方、距離を置かざるを得ない状況の方、実家や義実家と関わりを持ちたくない方などがいらっしゃいます。
なにげなく投稿した写真から 情報が漏れて、危険に晒され、 命を狙われるかもしれないのです。
投稿された方は、そんな危機から相手の方を守れる自信があるのでしょうか?その自信がないのであれば 写真を載せるのは辞めるべきです。万が一載せてしまった場合は、もう取り返しがつかないかもしれません。でも、早急に削除を(一部抜粋)」
SNSでは、多くの賛同があり、「何度話しても理解できない祖父母も。スマホ禁止や出禁も必要かも」「見つけ次第、退園は出来ないですか?他のお子様、先生方、場所、施設などを守る方が大切」「まず、自分の子の個人情報ばら撒くなです」などのコメントが寄せられました。
「動画や写真を撮るのは自由です。見せたかった人に見せられる 子どもと振り返って気持ちを共有する。身内だけであれば問題ありません」
撮影に理解を示しつつも、かこさんは、「写真から特定できる情報はとても多いのです。素人でも知っていればピンときます。今の時代は、AIを使えば、すぐに分かってしまうのです」と警鐘を鳴らします。
「他のお子さんの写真が不本意に世の中に出回ってしまうことが、心配でなりません」と不安な思いを吐露します。
保育園や幼稚園、小学校では、運動会に限らず、お遊戯会や発表会、親子遠足、卒園式など保護者が観覧できる子どもの行事があります。
かこさんの勤める保育園ではホームページ等で紹介する写真に子どもが写ることの掲載許可を各家庭に確認。許可していない家庭は把握している状況です。
「危機的状況の中で、必死な思いで通園している方がいらっしゃることは事実です。それは、この保育園だけに限りません。私の投稿に対して、実際に同じ経験をされている保育士さんも大勢いて、私だけではないなと思いました。
だからこそ、軽い気持ちでの投稿が、個人情報の漏洩・犯罪につながる可能性があることを再度、理解していただきたい。本人やご家族への同意なしのSNSへの写真投稿はNGであることが、多くの方に届いたらいいなと思っております」
SNSに写真を投稿する前に、思いを馳せてください。必死の思いで逃げてきた親子が居場所を知られる不安を抱えながらも新しい土地で穏やかな暮らしを続けていること、懸命に生きる親子を見守り、支える人々がいることを。
そして、写真を投稿してしまうと、その暮らしが一瞬で破壊されてしまうことも。
大切なお子さん・お孫さんの写真や動画は個人情報をさらすことにもなります。家族の思い出は家族だけのものに。
■かこ⌇ 小1の壁に立ち向かうママ (@kako_kosodate)