京都府福知山市の旧大江町で唯一の酒屋で、創業300年を超える「河守(こうもり)醸造 由里酒店」(大江町関)が代替わりし、新たな一歩を踏み出した。昨年秋に先代が急逝し、一時は存続が危ぶまれたが、大阪で暮らしていた一人娘の夫婦が継ぐことを決意した。夫婦は「大切な歴史を途絶えさせることなく、つないでいきたい」と誓う。
河守醸造は江戸期から続く酒蔵で、「かさ鶴」の銘柄で地域に親しまれてきた。看板の「かさ鶴」はすっきりとした辛口が特徴。「大江山の鬼伝説」にちなんだ超辛口の「鬼酒」や「鬼の舞」などの銘柄もある。杜氏(とうじ)の高齢化などで酒造りは約40年前にやめ、現在は播磨の酒蔵に自社ブランドの製造を委託している。
15代目の由里義和さんは昨年10月末、84歳でがんで亡くなった。6月に体調を崩し、9月に入院したばかりだった。一人娘の前川紘子さん(35)と夫の賢司さん(37)はともに大阪で働いていたが、義和さんの体調が悪くなってからはリモートワークに切り替えて駆けつけた。賢司さんも週の半分は配達を手伝った。
義和さんは生前、店じまいも検討していたようで、取引先を縮小していた。それでも、店を畳みたくないという熱意もあり、病床で「注文を聞かないといけない」と顧客を気にかけ続けていたという。
賢司さんが店を継ぐことを決心したのは11月。配達などで仕入れ先や顧客と関わる中、「こんなにも歴史があり、愛されているお酒やお店を途絶えさせたくない」という思いが強まった。前職は広告代理店の営業。畑違いの仕事に不安はあるが、紘子さんと二人三脚でやっていこうと決めた。
新たに走り出して4カ月。店の継続をまちの人が喜んでくれるのが何よりもうれしく感じる。2人は「お酒は人と人をつなぐツール。まちの人の結び目になれるように、大切な歴史をつないでいきたい」と話す。